剣道の段位は八段が最上位。
剣道は昇段がとても難しいことで知られ、八段まで上り詰めるのはまさに至難の業と言われています。
では剣道で最も強いのは八段の人なのかというと、実はそう単純ではないのです。
例えば剣道日本一を決める「全日本剣道選手権大会」の優勝者には、六段や五段が多く、中には四段の優勝者も。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
ここでは剣道の段位と強さの関係について紹介します。
剣道の段位と強さが比例しない理由
全日本剣道選手権大会の結果からも分かるように、「剣道の段位」と「強さ」は比例しません。
それはなぜでしょうか?
段位以上の実力を持つ人がいる
大きな理由のひとつは、昇段審査の年齢制限です。
剣道の昇段審査は、受けるだけでも以下のような基準があります。
・初段=一級受有者で、満13歳以上の者
・二段=初段受有後1年以上修行した者
・三段=二段受有後2年以上修行した者
・四段=三段受有後3年以上修行した者
この「前の段位になってから修行した年数」はどんどん伸びていき、八段ともなると「七段受有後10年以上修行し、かつ、年齢46歳以上の者」となります。
本当に強い選手の場合、定められた修行期間の間に上の段位以上の強さを獲得してしまい、それでも昇段審査を受けられないという状態になってしまうのです。
逆に同じ段位でも試合の実力はまるで違うということも。
全日本レベルで優勝するような四段の選手は、強さだけなら既にずっと上の段の実力になっていると言えるのです。
衰えても降格しない
剣道には「弱くなったから降格」という制度はありません。
例えば六段になった人が怪我や衰えを理由に五段、四段と下がっていくことはなく、六段のままです。
一方で全日本剣道選手権の優勝者は20代から30代前半の人がほとんど。
多くのスポーツと同じで、剣道も単純なスピードや力は2、30代がピークであることが多いのです。
だから八段に四段や五段が勝つということもあり得ます。
剣道の段位と強さ|段位が持つ意味
試合で弱いのなら、剣道の段位にはどのような意味があるのでしょうか。
実はそれは剣道経験者ほどよく知っています。
求められる基準が違う
剣道の試合で目指すのは「一本を取る」こと。
そのためには相手を圧倒する手数で打ち込み続けることも、フェイントを使うことも可能です。一本を取った者の方が強いということになります。
しかしそのような剣道をしていては、上位の昇段審査では合格することはできません。
昇段審査ではより正しい剣道、さらには「剣道の精義」や「剣道の奥義」を極めていることが求められます。
その場合、手数で相手を圧倒するような作戦はマイナス。無駄打ちをせずに有効打を取ることが求められるのです。
またフェイント技や、下がりながらの「引き面」などが決まっても、かえって印象が悪くなることがほとんどです。
さらに試合では自分の得意な技を駆使して一本を取れば良いのですが、昇段審査の場合それでは評価されません。
「応用技の錬熟度」も見られるため、攻めが単調にならないように、苦手な技もうまく織り込む必要があるのです。
つまり昇段審査では鍛錬の度合いを見られるということ。
単純な強さだけでは昇段することはできません。
実際に強い場合が多い
試合での強さに直結するわけではありませんが、八段の人は弱いのかというと、そのようなことは全くありません。
なぜなら剣道の段位は高い段になるほど合格率が圧倒的に低くなっていくから。
特に最上位の八段の合格率は1%程度。10年以上の鍛錬を積んだ七段の中で100人に1人しか八段にはなれないのです。
この昇段審査では、同じ七段の相手と試合形式で戦い、有効打突を取ったり、飛び抜けた技を見せたりする必要があります。
試合での強さとイコールではないとはいえ、試合でも弱いはずがないのです。
剣道への理解の深さ
スポーツとしての剣道では、体力的に恵まれている四段、五段が有利な面も。
しかし剣道は日本刀を竹刀に持ち替えたもの。
本来の剣の対決では負けたら死ぬことがあるわけですから、本来の剣道は、スポーツとしての剣道とは意味が大きく違ってきます。
例えば剣道では、実際に竹刀を振って打ち込む前に「攻め」が行われています。
この「攻め」は自分に優位な間合いや「中心」の取り合いなどのこと。
上位の段になるほど、理に適った攻めを極め、相手にしてみれば「打ち込む隙がどこにもない」という状態になっていきます。
こうした剣道への理解がなければ上位の昇段審査に受かることは不可能です。
試合では若い選手がスピードとパワーに頼って一本を取ることができても、剣道の本質という意味では圧倒されていることが多いのです。
まとめ
剣道の試合での「強さ」は段位とイコールではなく、大会では若い五段や四段の選手が勝つこともあります。
しかし武道としての剣道の強さはまた別の話。
全国レベルの強豪選手が試合では自分より弱い高段位の先生に教えを乞うことも多いのです。
それは「攻めの本質」や「理のかなった打突」など、剣道への理解を深めるために学ぶことがとても多いから。
試合を見ただけでは分からない「強さ」があり、生涯をかけて自分を磨けるのも剣道の魅力ではないでしょうか。
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