スポーツの発祥はさまざま。狩猟から槍投げやアーチェリーといったスポーツが生まれ、宗教的な儀式からボウリングが生まれたように、意外なものから発展してスポーツになった例はたくさんあります。
ファストドロウというスポーツもその一つ。西部劇の対決シーンでよく見る早撃ちの決闘がスポーツになったものです。
ここでは、早撃ちがどのようなスポーツになっているのかを探っていきます。
ファストドロウとは?
ファストドロウは早撃ちガンマンをスポーツにしたもの。西部劇への憧れから始まったものなので、大会には西部劇の正装で出場します。
カウボーイハットとシャツ、ブーツのカウボーイスタイルや、ポンチョのメキシカンスタイルなど、1800年台のアメリカ西部を描いた映画に出てくる衣装であることがこのスポーツの常識。
さらにコルトピースメーカーなど、西部劇に出てくるシングルアクションリボルバーと腰ベルトのホルスターを使います。
また日本ファストドロウ協会に入会する際には、ジャック佐藤やシェーン鈴木など、自分の「シューティングネーム」を決め、それで呼び合います。
このようにまさに格好から入るのがファストドロウ。大会では技術談義だけでなく、ファッションのこだわりについても語り合い、盛り上がります。
世界一速いスポーツ!世界一安全なシューティングスポーツ
大会の雰囲気はほのぼのとしているファストドロウですが、その競技自体は「世界一速いスポーツ」とも言われています。
早撃ちのタイムは、名人級では0.2秒台。1000分の1秒まで測定できる公認タイマーを使って競い合います。
また銃を使うスポーツは危険そうですが、火薬の量はパーティークラッカーより少ない0.01g以下です。BB弾を使う競技でも狙うのは人ではなく金属の的で、市販の6㎜の軽量なものを使い、銃口を人に向けない、撃つとき以外は弾を装填しないなどの厳しいルールがあります。そういったことから「世界一安全なシューティングスポーツ」とも言われています。
ファストドロウの競技
ファストドロウは、ベルトのホルスターに銃を収め、銃に触れない状態で待ちます。そしてランプの点灯を合図に銃を抜いて撃ちます。まさに西部劇の早撃ちそのもの。
ただし一口にファストドロウといっても、その競技は大きく2つに分かれます。実はいわゆる「モデルガン」にも2つの種類があり、それを使い分けるのが面白いところです。
ブランク
トイガン(玩具の銃)に詳しくない人の多くは、BB弾を発射するものも含めて玩具の銃=モデルガンと思いがちですが、厳密には違います。
モデルガンは弾を発射できないトイガンのこと。リアルに再現されていますが、改造しても弾を発射できないような構造になっています。これにキャップ火薬を詰めた弾を入れ、音と火花で実銃を撃っているような雰囲気を楽しみます。
そのモデルガンを使う競技が、「ブランク」。40㎝の距離から火花で風船を割ります。すぐ近くの風船に向かって銃を撃つ様子はかなり奇妙に見えますが、熟練者のスピードは驚異的。銃を抜いたのが見えないほどの速さで撃つその技は大迫力です。
このブランクには1つの風船を割る「シングルブランク」と2つの風船を割る「ダブルブランクス」があります。特に難しいのがダブルブランクス。
シングルアクションリボルバーという銃は、銃の後ろの撃鉄を起こさないと発射できません。そのため、右手で銃を抜きつつ左手で撃鉄を起こして撃つという動作になります。これを2回連続で行うのは至難の技。
ターゲットに火花が当たらないこともよくあります。ところが名人になるとタイムは0.4秒を切ることも。2つの銃声がまとめて聞こえるほどの早さです。
大会ではシングルブランクは7回のうちベスト5回のタイム、ダブルブランクスでは5回のうちベスト3回のタイムで競います。
ワックス
モデルガンとは違い、プラスチックのBB弾を発射するのが「エアガン」です。エアガンにも電動、ガス、エアコッキングなどさまざまな種類があります。
そんなエアガンを使うのが、「ワックス」という競技。ガス式のシングルアクションリボルバーを使い、8フィート離れた距離から人間大の金属製ターゲットを撃ちます。8フィートは約2.4m。初めて見た人はこの距離なら簡単に当たりそうに感じます。
ところが1000分の1秒を競うファストドロウでは、銃を抜いてすぐに腰の位置で撃つため、かなりの難易度で外してしまうことが多々あります。ターゲットに向かって立ち、ライトを待つ瞬間は、まさに早撃ちの決闘のような緊張感です。
大会ではシングルブランクと同じように7回のうちベスト5回のタイムで競います。
まとめ
西部劇の早撃ちガンマンを真似るファストドロウは、まさに少年時代の憧れを具現化したようなスポーツ。単純に競い合うだけでなく、タイム度外視でカッコいいスタイルを追求する人も大勢います。
その中で自分のタイムを超えていくのがこのスポーツの魅力。その分ゴールがなく、いつまでも挑戦し続けることができます。
西部劇への憧れからファストドロウが生まれ、時代劇への憧れからスポーツチャンバラが生まれたように、今後もカッコ良さを求めて新しいスポーツが生まれるかもしれません。