湖畔のキャンプ場でキャンプをした時に、湖上に小型の船を浮かべて優雅に漕いでいる方を見たことがあります。
「気持ちよさそうだな」「自分もやってみたいな」と思ったのですが、その船はボートだったのか、あるいはカヌーだったのか、その頃は両者の違いも分からなかったので『小型の船』としか認識できなかったことを思いだします。
今回は、カヌーとボートの違いや、競技としてのカヌーの種目やルール、どんな世界大会があるのか?日本の選手は世界の中で活躍できているの?など、カヌーについてのあれこれを調べましたので、ご紹介させていただきます。
カヌーの起源・歴史について
カヌーとボートの違い
カヌーの起源や歴史を考察する前に、同じ小型の船を使う競技であるボートとカヌーはどこが違うのか、「カヌーの定義」を確認してみました。
主な考え方には下記の二通りがあるようです。
1.進む方向の違い
カヌー:進行方向に正対して座り、進行方向に向かって進む。
ボート:進行方向に背を向けて座り、背中側に向かって進む。
2.推進するために使う用具の違い
カヌー:「パドル(櫂)」を使い、支点は無い。
ボート:「オール(櫓)」を使い、「クラッチ」と呼ばれる支点が艇側にある。
カヌーの起源
「極東アジアの北極圏から北米イヌイットの世界を経由して、南米に至るモンゴロイド系民族がカヌーに乗っていた」という最近の報告もあるカヌーは、人類にとっては『生活に根ざした最も古い道具』の一つといえるようです。
古くは6千年ほど前のユーフラテス川畔にあるシュメール人の王墓に残されているといわれ、人々の移動の手段として、あるいは狩猟や輸送の道具として、海洋、湖沼、潟、河川などあらゆる場所で生まれました。
競技カヌーの歴史
「スポーツとしての近代カヌー」は、19世紀中頃イギリスで芽生え、最初のカヌーレースはイギリスのテームズ川で1866年に行われています。
「競技カヌー」としての国際組織としては、「国際カヌー連盟(IRK)」が1924年にデンマークで設立され、1946年に「国際カヌー連盟(ICF)」へと発展的に改組され、ベルリン五輪(1936年)からは、オリンピックに正式種目として採用されています。
日本におけるカヌーの歴史について
ベルリン五輪(1936年)のボート競技選手団が、東京五輪(1940年に開催が決定していたが、日中戦争の勃発により幻となってしまった)の準備のために、ドイツ製のカヌーを持ち帰ったことが、日本におけるカヌー競技の始まりといわれています。
その後「日本カヌー協会」が設立(1938年)されましたが、大東亜戦争(太平洋戦争)の激化に伴って活動は自然に消滅してしまいましたが、戦後になって日本カヌー協会が復活(1960年)しました。
初めて日本で開催されたオリンピック東京大会(1964年)の開催後に「日本カヌー協会」は「日本体育協会」に加盟し、1980年に法人化され「公益社団法人日本カヌー連盟」となり現在に至ります。
カヌーと関連のあるスポーツ
競技カヌーは、漕ぎ手の人数や距離などによって何種類かに分かれますが、ここでは「一般社団法人日本カヌー連盟」が定める分類に従ってご説明します。
カヌーとカヤック
競技カヌーの種目を見ていく際には、まず甲板の有無によって大きく2種類に分類されます。
○(カナディアン)カヌー
甲板が無く、ブレード(水掻き)が片側に付いたパドルで漕ぐ。
○カヤック
漕ぎ手が座るコックピット以外は甲板で覆われていて、ブレードが両端に付いたパドルで漕ぐ。
カヌースプリント
静水面で1人乗りから4人乗りまでの艇に乗り、一定の距離(200m、500m、1000m)と水路(レーン)を決めて複数の艇が一斉にスタートして最短時間で漕ぎ、着順を競う競技です。
カヌースラローム
河川の定められた区間を、吊るされたゲートを通過しながらゴールするまでのタイムを競う競技。
カヌーワイルドウォーター
特に激流の河川を下り、ゴールするまでのタイムを競う競技。
カヌーポロ
1人乗りのカヌーに乗って、ボール(水球で使われるボールと同じ)を相手ゴールに入れて得点数を競う「水上のポロ競技」です。
その他のカヌー競技
○SUP(サップ)
「Stand Up Paddleboard(スタンドアップパドルボード)」の略称で、サーフボードの上に立った姿勢で、パドルを使って漕ぎ進めていくウォータースポーツです。
○ドラゴンカヌー
龍の頭と尾で装飾された幅が狭くて長い船に、20名ほどの乗員が乗り込み、障害物が無い直線または周回のコースでタイムを競う競技です。中国、日本(沖縄や長崎)や東南アジアで、競技としてだけでなく祝祭としても古代より行われてきました。
○カヌーフリースタイル
激流の中でカヌーを操る選手が、水中に潜ったり、宙返りしたりもする「水上のロディオ」とも呼ばれているエキサイティングな競技です。
○パラカヌー
身体障害者によるカヌー競技。障害の程度が重い順にクラス分けされて行われます。
カヌーの競技人口について
日本国内のカヌーの競技人口
日本ボート協会と日本カヌー連盟が作成した「ボート・カヌー競技のレガシー計画」の記載(日本ボート協会2016年実施調査結果より試算)によると、「カヌー(スプリント)」と「ドラゴンカヌー」を合せた競技「登録者」数は「2,651人」です。
競技「経験者」数は「約260万人」で、競技「意向者」数は「約2.51万人」とのことです。
世界のカヌーの競技人口
世界のカヌーの競技人口については、該当する資料が見つけられませんでしたが、参考までに「東京2020オリンピック」のカヌー競技の参加国数を調べたところ「59ヵ国」でした。
参加人数は、スラローム種目とスプリント種目を合せて370名(男子:187名、女子:183名)となりました。
カヌーのルールについて
公認ルールが定められているカヌー競技について調べてみました。
カヌースプリント
○コース
9つのレーン(水路)があり、1つのレーンは幅9mで、このレーンからはみ出すと失格となります。
○スタート
「Ready(位置について)」「Set用意)」で選手はパドルを構え、スタートの準備をします。その後の「Go(発砲音または信号音)」がスタートの合図になります。
○フィニッシュ
船首がフィニッシュラインを通過した順に順位が決定します。
カヌースラローム
○コース
全長250~400メートルのコースを、ゲート(2本のポールでできた門)を通過しなが進みます。
○勝敗
スタートからゴールまでの「所要タイム」と、各ゲートを通過する際の「ペナルティータイム」によって勝敗を決定します。ゲートのポールに体や船体、パドルが触れると、2秒の「タイムペナルティタイム」を追加します。
カヌーワイルドウォーター
短距離種目の「スプリント」と、長距離種目の「クラシック」の2種目があります。
○スタート
「静止状態」で、発砲音または信号音によってスタート。チームの全選手は、リリースの瞬間から「10秒以内」にスタートラインを通過しなければなりません。
カヌーポロ
○選手数
1チーム8名(コートには5名が入り、交替は自由)。
○ゴール
水上2メートルの高さに、縦1m×横1.5mのゴールが設置される。
○試合時間
通常10分ハーフの20分間、ハーフタイム3分間。同点の場合は3分ハーフの延長戦を行う。
カヌーの国際的な大会について
世界選手権
○カヌースプリント世界選手権
毎年(五輪開催年を除く)開催される、カヌーの世界最高峰の大会。主催は国際カヌー連盟。
○カヌースラローム世界選手権
毎年(五輪開催年を除く)開催される、カヌースラロームの世界最高峰の大会。主催は国際カヌー連盟。
オリンピック
ヨーロッパや南米の国々と比較すると、日本やアジアの国々はまだ歴史が浅く、強豪国にはなかなか追いつけていない状況です。
オリンピックのカヌー競技の歴史を見ると、パリ五輪(1924年)で公開競技として実施され、ベルリンオリンピック(1936年)から正式種目となったことが分かりました。当初は男子種目のみでしたが、ロンドン五輪(1948年)からは女子種目も追加されました。
ミュンヘン五輪(1972年)からは男女のスラローム種目が新たに追加され、モントリオール五輪(1976年)からソウル五輪(1988年)までの間は実施されませんでしたが、バルセロナ五輪(1992年)から再びスラローム種目が実施されることになりました。
世界から見た日本女子カヌー&男子カヌーの強さのレベル
オリンピックのカヌー競技への参加状況を見ると、日本が参加しなかったモスクワ五輪(1980年)を除いては、東京五輪(1964年)以降は毎回選手を派遣しています。
その中から、1984年「ロサンゼルス大会」の井上清澄(6位)とカナディアンペア(8位)、2004年「アテネ大会」の女子カヤックフォア(決勝進出)、2008年「北京大会」の女子カヤックダブル(5位)、女子カヤックフォア(6位)などの入賞者が出ています。
2016年「リオデジャネイロ大会」では、羽根田卓也選手(ミキハウス)が「スラローム男子カナディアンシングル」で銅メダルを獲得し、日本人初の『カヌー競技メダリスト』となりました。
また、オリンピック以外の世界大会においても、世界選手権やワールドカップでも上位入賞を果たしており、日本選手の国際競技力は高まってきています。
まとめ
競技としてのカヌーでは、世界を舞台に日本の選手が活躍していることが分かりました。
まだまだ競技人口は少ないですが、これからカヌーの魅力に目覚めて始める方が増えてきて、さらに活躍の場が広がることを願います。
また、今回は触れられませんでしたが、水のあるところなら海・川・湖と、場所を選ばず楽しむことができるカヌーは手軽に始められるレクリエーションでもあります。
私は椎名誠さんの「あやしい探検隊」シリーズを愛読していましたが、その中に登場する野田知佑さんが、愛犬「ガク」を乗せたカヌーにキャンプ道具を積んで、川原でテント泊をしながら続けている川の旅を、『究極の贅沢な旅』だとうらやましく思ったことを思い出します。
「カヌーを始めてみようかな?」と思った、今回の調査でした。
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