前回までのコラムで、「指導の在り方」や「やり方」について書きました。
在り方、やり方、そこにもう一つ大事な要素が加わるとしたら、それはきっと「伝え方」だと思います。
在り方も立派、やり方も豊富。しかしその現場において、子ども達にしっかりと伝わる「伝え方」を心得ていなければ、せっかくの在り方もやり方も、全ては水の泡です。
練習や試合問わず、普段の指導現場において、子ども達に対しどういう伝え方をしていくのがいいのでしょうか。
言うと伝えるは違う
「言う」と「伝える」は違います。こちらは伝えたつもりになっていても、それを受け取る子ども達にはまるで届かず伝わってもいなかったとしたならば、本末転倒ですよね。
大事なのは、言うだけではなくそれが本当に「伝わった」のかどうか。
口を使って言葉を投げ、それが相手の耳に入る。
それだけではきっと足りません。
相手の側に立って慎重に言葉を選び、心を込めて伝える。受け取る側もそれを耳で聞くだけでなく、心に染み込ませて頭で理解しようとする。
そこで初めて、伝わったと言えるのではないでしょうか。
子ども達の耳に入れるだけではなく心に届かせ、しっかりと伝えるためにこちらが気をかけなければいけないこと。
今回はそんなテーマで、ここから考察を進めていきます。
大人と子どもではなく、人間同士であるという前提
まず前提として持っておきたいことは、監督と選手、先生と生徒、大人と子どもというような上下関係ではなく、あくまでも「同じ人間同士」だということです。
「子どもは言わなきゃわからない」「俺が教えてやってる」「黙って言うこと聞いてればいい」
もしこちらがこのようなスタンスでいたとしたら、子どもはきっとただ聞いてるフリだけをして、「ハイ」とわかったフリの返事をして、良い子を演じ、その場の時間が過ぎるのをただただ待つことに徹してしまうでしょう。
こちらはそんな返事に満足をして、勘違いをして、しかし実は何も伝わっていなかったということになってしまうのではないでしょうか。
あくまでも同じ人間同士。同じコミュニティーの中で同じ時間を過ごし、同じ目標を持つ同士。
互いに尊重し合いながら、大人は「教えてやる」という上から目線ではなく、子ども達と同じ目線に立って、彼ら彼女らが今何を求めているのかを観察しながら、「この子達が楽しむ場所、成長するための場所に携わらせてもらっている」というくらいの謙虚な姿勢でいるのがいいのではないでしょうか。
そんな謙虚で真摯な姿勢が子ども達にも伝われば、きっと次第に耳だけでなくて心も開いてくれるのではと思います。
ではその上で、言葉をどう投げかけていけばいいのでしょうか。
ノックとキャッチボール
ノックとキャッチボールと書きましたが、ここでいうノックとは野球のノックではなく、扉をノックするという意味での「ノック」です。
大人と子どもの間には、きっと扉があると思っています。最初から心を開いてくれている子は多くないでしょう。
その扉をいきなり蹴破ったり、強引にこじ開けたり、チェーンソーで破壊して無理やり入って行ってはいないでしょうか。「俺の話を聞け!」と。
それでは、間違いなく心は開かないですよね。そこに扉があるのならば、マナーとしてまずやるべきことは「ノック」です。
「扉を開けてくれませんか?」と。ドンドンドン!はダメですよ。あくまでも コンコン、です。
そこで子どもが自ら開けてくれるのを、こちらはじっと待つ。
彼ら彼女らが自ら開けてくれたときはきっと、こちらの声を聞く準備ができているのだと思います。
よく、「会話はキャッチボール」なんて言いますよね。
その通り、大人と子ども、指導者と選手のコミュニケーションも、基本はキャッチボールです。
子どもに160kmの豪速球を投げたら、子どもは怖がって逃げてしまいます。そもそも、子どもがグローブを構えていないときに無理やり投げつけていないか。
そんなことを続けていたら、そのうちこちらが投げるフリをしただけで子どもはきっと怖がって身をすくめてしまうでしょう。
ボールをキャッチしてほしいのだから、豪速球ではダメ。下からふんわり、子どもが難なくキャッチできるような優しいボールを投げてあげなければいけない。
もっと言えば、子どものもとに届かないようなソフトなボールを投げ、それを子どものほうから「うん?なんだなんだ?」と興味を持って拾いに来てくれるような。
大人ならば、ボールの投げ方に気をつけなければいけません。
伝えるとは、きっとそういうことだと思うのです。
最後に
いかがでしたでしょうか。次回はこの続きで「子ども達への伝え方いろいろ・2」です。
次回は、日本人の特性という観点も絡めながら、具体的に伝えるのと抽象的に伝えるのではどちらがいいのか。
そのあたりを独自に考察していきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。