高校野球といえば丸刈りの坊主頭。ひと昔前まではそれが当たり前でしたが、近年は長髪の高校球児が増えています。実際のところ、高校野球の脱坊主頭はどれくらい進んでいるのでしょうか?
今回は、高校野球の坊主頭について、最新事情を調査。そこには日本ならではの「忖度」や、意外な「逆忖度」も存在しました。いったいどういうことなのか。高校球児たちの今をじっくり解説しましょう。
【高校野球】なぜ坊主頭が普通?
そもそも日本の高校野球はなぜ坊主頭が当たり前だったのでしょうか?
実は歴史をさかのぼっても日本高等学校野球連盟が坊主頭を強制していたことは一度もありません。
高校野球で坊主頭が当たり前になった理由には、悲しい歴史的背景があるのです。
坊主頭の歴史的背景
日本の坊主頭の歴史が始まったのは、明治4年に明治政府が布告した散髪脱刀令。明治維新以降は軍隊が強力な権力を持つようになり、国民にも軍人を真似た坊主頭が定着しました。特に中学、高校の男子生徒は坊主頭という考え方が当たり前に。長髪が容認されるようになってきたのは昭和30年代後半以降のことです。
一方、日本に野球が伝わったのは明治5年のことで、長い間、野球は学生のスポーツとして普及してきました。
そして太平洋戦争が勃発すると、学生が野球をやっていることに対して大きな批判が起こります。このとき、野球を存続させようと立ち上がったのが、早稲田大学野球部の監督だった飛田穂洲氏。彼は「野球は軍隊式訓練にもつながるから残すべきだ」と主張し、夏の甲子園大会を戦時中も継続させることに成功します。
しかしその代償として、千本ノックなどの厳しい練習や厳格な上下関係、坊主頭が「野球の伝統」として定着。伝統は守るべきだという考え方も、軍隊指揮訓練から生まれました。
つまり野球を守るためについた「嘘も方便」を戦後も伝統として守り続けたのが、坊主頭の強制だといえるのです。
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坊主頭は減っている?
この坊主頭、甲子園に出てくる高校ではまだまだ主流です。
2023年の夏の全国大会に出場した高校のうち、全員が丸刈りというわけではない高校は7校。つまり残りの42校は全員が坊主だったということ。
2024年の春の全国大会では、全員が丸刈りというわけではない高校は4校に減りました。少なくとも強豪校に関しては、丸刈が主流であるのは間違いありません。
丸刈りの強制は激減している
全国高等学校野球選手権大会を主催する日本高野連と朝日新聞社は、5年に一度「高校野球選手の頭髪」についてのアンケートを行っています。
そのなかの「部員の頭髪は丸刈りと決めている」という質問にイエスと答えた高校は、2013年には79.4%でした。それが2018年には76.8%と少し減り、2023年にはなんと26.4%に激減しています。
つまり今では4校に3校は髪型が自由なのです。
髪型自由化の理由はコロナ禍
脱坊主頭の大きなきっかけは、実はコロナ禍です。
コロナ禍では、高校への通学が禁止され、野球部の活動も停止しました。その間野球部員たちは家にいたため、坊主頭にする必要がなくなったのです。
コロナ明けにもその習慣は定着。これがきっかけとなって頭髪自由が増えたといわれています。
忖度と同調圧力はある?
ルール上は髪型を自由にしているといいながら、部員全員が坊主頭という高校はまだたくさんあります。
そこで近年よく言われるのが忖度と同調圧力です。
これはどういうことかというと、「ルールにはしないけど、高校球児らしい髪型が何か、分かってるよな」という空気。「先輩もみんな坊主にしている中、自分たちが髪を伸ばすわけにはいかない」という雰囲気です。
これは多くの高校でまだ残っているそう。ただし後述しますが、ここには逆の問題も潜んでいます。
監督による強要は多いが、理由もある
多くの高校で髪型を強要するルールはなくなっているものの、監督が坊主頭を強要する例は多く残っています。
ただしその理由はさまざま。単に「伝統だから」という理由で続けている監督は少ないようです。
以下が、監督が挙げた坊主頭強要の主な理由です。
・散髪費の負担を減らしたい
・野球に集中するため
・地域に応援してもらうには昔ながらの坊主頭の方がいい
あなたはこの理由、どう感じますか?
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逆の同調圧力もある
一方で今問題になっているのは、「坊主頭は古いからやめるべきだ」という逆の同調圧力。
伝統的な野球部経験者以外には特に「坊主頭は悪しき伝統」「坊主頭は時代錯誤」という意識が強くなっています。
その結果、監督や選手に「坊主頭をやめる選手が増えているんだから、時代に合わせて坊主頭は一切やめるべきだ」という同調圧力がかかっているのです。
これがなぜ問題かというと、高校球児の中には伝統だからではなく、その方が野球をするのに楽だから坊主頭にしているという選手もいるから。
そういった選手にまで、他の選手や父兄、地域の人から「坊主頭をやめるべきだ」という逆の同調圧力がかかっているため、選手が苦しむという皮肉な現象が起こっているのです。
まとめ
強要する高校は減っている野球部の坊主頭。地方大会では坊主頭ではない高校を見ることも増えてきました。また2023年の夏には以前から長髪だった慶應高校が全国制覇をしたこともあり、「髪を伸ばしているから弱い」とも言えない状況に。
しかしこうなると問題は、坊主頭であること自体ではなく、ルールや場の空気による「髪型の強要」の方だといえそうです。
やっと本人の意思で髪型が決められる時代になったのだから、「坊主をやめて髪を伸ばすべきだ」という意見も含めて、他人への圧力は控えた方がいいかもしれませんね。
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