サッカーの戦術には多くの種類がありますが、その中の一つが「トータルフットボール」です。
聞いたことはあるけど意味はよく分からないという方も多いはず。
いったいどのような戦術なのでしょうか。
今回は、サッカー戦術のトータルフットボールをご紹介。
サッカーの理想とも言われたその戦術の詳細から、登場した背景、歴史、さらに弱点まで、分かりやすく解説します。
トータルフットボールとは
まずはトータルフットボールの概要から。
簡単にまとめると、どのような意味になるのでしょうか。
概要
トータルフットボールは、1974年のFIFAワールドカップ西ドイツ大会でオランダ代表が使ったサッカー戦術のこと。
ポジションという枠をなくし、チーム全員が攻撃と守備を担う戦術です。
とはいえこのままでは、サッカーをあまり知らない小学生が適当にボールに殺到している状態との違いがよく分かりません。
どういう戦術なのか、以下に詳しくご紹介します。
トータルフットボールの戦術
ポジションをなくし、チーム全員が攻撃と守備を担うというトータルフットボール。
具体的にはどのような戦術になるのでしょうか。
ボールポゼッションを重視
ボールポゼッションとは、細かいパスワークでボールの支配率を上げる考え方。
相手にボールを奪われなければ失点することはないという考え方で、相手に奪われる危険性が高い縦へのロングパスや大きなサイドチェンジを行いません。
全員でショートパスを繋ぐのがトータルフットボールの基本戦術です。
即座のハイプレス
ショートパスで繋ぎながら上がっていくため、ディフェンスラインも高い位置に。
ボールを奪われた際にはチーム全体で連動し、守備陣形をコンパクトに保ってハイプレスを展開します。
このチーム全体の連動がトータルフットボールの特徴。
オフェンスでの細かいパスワークとディフェンスでのハイプレスがトータルフットボールに必須の要素となります。
スペースを作り、利用
マンツーマンディフェンスではオフェンス選手が移動すると相手ディフェンダーもマークするために移動します。
するとそこにスペースができることに。
チーム全体が連動するトータルフットボールではその空いたスペースに別のポジションの選手が入ったり、スルーパスを出したりします。
このように連動した動きでスペースを作って利用するのも、トータルフットボールの戦術です。
ポジションチェンジの多用
一般的なサッカー戦術では各選手が自分のポジションを担当しますが、チーム全体が連動するトータルフットボールではそれぞれの選手がポジションを移動します。
これよってマークしている相手ディフェンスを混乱させる効果も。
選手全員がさまざまなポジションを担当するのもトータルフットボールの特徴です。
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トータルフットボールの歴史
現代サッカーに多大な影響を与えたトータルフットボール。
いったいどのようにして誕生し、どう変化してきたのでしょうか。
背景
1960年代までのサッカーは、選手のポジションが固定されていて、最前線と最後尾の間が広い間延びした試合が一般的。また攻撃は能動的で守備は受動的という戦術が一般的で、守備時にはマンマークが基本でした。
1970年代、そこに登場したのが西ドイツの皇帝ベッケンバウワー選手。
最後尾にいるリベロは攻撃には参加しないため相手のマンマークがつかなかった時代に、ベッケンバウワーは攻撃するリベロとして活躍。
攻撃力のある選手をあえてリベロに置き、フリーの状態で最前線まで上がっていくという戦術が生まれたのです。
これによってサイドバックなどのディフェンスも攻撃に参加するという考え方が誕生。しかしそこで問題となるのが、ディフェンスが攻撃に行ってしまうために生まれるスペースでした。
こういった背景から、全員が連動してスペースを生かすという考え方が生まれてきたのです。
トータルフットボールの誕生
ポジションに関係なく全員が連動して動くという戦術は、完璧に実行すればまさにサッカーの理想。
1950年代のオーストリアですでにそういった考え方はあったと言われています。
しかしそれをようやく実現できたのが、名将リヌス・ミケルス監督率いる1974年のオランダ代表でした。
このチームがトータルフットボールを完成することができたのは「フライングダッチマン」「フットボールの革命児」と呼ばれるヨハン・クライフ選手がいたから。
確かな戦術眼を持ち、ミケルス監督の戦術を完璧に理解した彼は、自在なポジショニングをとりながら試合の流れを読み、周りの選手に的確な指示を与え続けました。
その結果、オランダ代表はブラジルなどの強豪を次々に撃破して決勝に進出。最後は準優勝に終わりましたが、優勝した西ドイツ以上の印象を残し、その後のサッカー界に大きな影響を及ぼしました。
今も「昔のサッカーと現在のサッカーの分岐点は?」という話題になると、多くのサッカー関係者が1974年のオランダ代表を上げます。
その後の影響
トータルフットボールでサッカー界に革命を起こしたクライフ選手とミケルス監督は共にスペインのバルセロナに移籍。
バルセロナにトータルフットボールを伝授して、世界最強のチームへと変貌させました。
その結果、世界中にトータルフットボールを採用するチームが誕生したのです。
トータルフットボールの弱点
世界最強チームの戦術でもあったトータルフットボール。
今でも主流となっていないのはなぜでしょうか。
ゾーンディフェンスの誕生
トータルフットボールが世界で注目されるようになると、当然のようにそれに対抗するシステムも考案されました。
それはマンツーマンディフェンスに代わるゾーンディフェンス。
マンツーマンディフェンスではポジションチェンジにディフェンダーがつられてスペースを作ることになってしまいますが、ゾーンディフェンスなら動かないためトータルフットボールのメリットを消すことができます。
そのため最近はゾーンディフェンスが主流になっているのです。
選手の育成が非効率的
チーム全体が連動するトータルフットボールはサッカーの理想ではありますが、全ての選手が戦術をしっかり理解していることが必要になります。
しかもあらゆるポジション、攻撃と守備をこなせる技術も必須。
野球で選手全員を二刀流に育てるようなもので、そのような選手を育成するのは非効率的だという考えが現在の主流になっています。
さらにチームを統率する優れた司令塔も必要。今でも「トータルフットボールはヨハン・クライフ選手以外では実現不可能だった」と言われています。
まとめ
1974年に世界を驚かせたトータルフットボール。
現代サッカーの戦術の多くはその影響を受けています。
過去の日本代表でも岡田監督やハリルホジッチ監督が現代流のトータルフットボールを追求。
実現には選手の高い能力も必要ですが、今後もさらに進化したトータルフットボール戦術が見られるかもしれません。
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