みなさんは「左を制すものは世界を制す」という言葉をご存じでしょうか?
この言葉はボクシングをしている人や、ボクシングに詳しい人にとっては有名で、名選手であるモハメド・アリ選手が残した言葉です。
今回は、「左を制すものは世界を制す」という言葉の意味と、その理由を解説します。
「左を制すものは世界を制す」と言われる理由
この言葉で「左」とされているのはオーソドックス(右利き)の選手にとっての「左ジャブ」のことを指します。
要するに「ジャブを制するものは世界を制す」という意味です。ジャブはボクシングの基本中の基本動作でありながら、最も重要な攻撃と言われています。
「ジャブを巧みに使いこなせる選手は、必ず試合の主導権を握り負けることはない」ということの例えです。
ボクシングのパンチの種類
ボクシングはパンチのみで戦う格闘技ですが、ひとくちにパンチといっても種類はさまざまです。
とても奥が深いパンチですが、ここでは基本的な「ストレート」、「フック」、「アッパー」の3種類について解説します。
ストレート
ストレートは構えた状態から腕を真っすぐに伸ばす、一番リーチの長いパンチです。
ボクシングのリーチとは、腕を伸ばして届く距離・範囲のことを指します。両手を広げて、手をグーではなく開いた状態で、左手の中指から右手の中指までの長さのことです。パンチを出す軌道が直線的なため、相手に最短で届く「速さ」が特徴。
また、ガードの位置から打つため隙がないパンチでもあり、ジャブはこのストレート系統に分類されます。
フック
フックは腕を曲げて体の回転を使って巻き込むように打つパンチです。
腕を巻き込むときに腕のパワーを上乗せできるため、強力なパワーが特徴ですが、腕を曲げて打つためリーチはストレートよりも短く、近距離~中距離で威力を発揮します。
アッパー
アッパーは体の回転を利用して下から突き上げるパンチです。
下から相手の顎を跳ね上げる形になるため、脳が揺れやすくダウンを狙えるのが特徴であり、懐に入られた時のカウンターや、相手の懐に入った時に至近距離で打つことができます。
「ジャブ」の重要性
ジャブはストレート系統のパンチに分類され、最も基本的でありながら最も重要なパンチと言われています。
日本語で「突き刺す」という意味を持つジャブは、体の回転は使わず、肩を押し出すイメージで刺すように突きます。前方の手で最短の距離を通って放たれるため、最速のパンチと言われ、けん制、距離を測る、フェイントなどさまざまな用途があり、最も使用頻度の高いパンチです。
ジャブの種類
さまざまな用途があるジャブの種類について解説します。
相手との距離をはかるジャブ
ボクシングにおいて、相手との距離をはかることはとても重要な要素です。相手の攻撃を避けたり、強烈なストレートを当てたりするためにボクサーは常に距離をはかりながら闘っています。
ジャブを打ちながら、すこしずつ距離を詰めてはまた離れ、を繰り返し、相手との間合いをはかっていくのです。
相手をけん制するジャブ
相手の前進を止め、安易に先手を許さないように威嚇するために打つジャブです。
攻撃のリズムを構築するジャブ
ジャブからのストレート、フックなど自分に有利な攻撃の流れ、リズムを作り出すきっかけをつくるためにもジャブは極めて重要な役割があります。
フェイントとしてのジャブ
こちらの攻撃を効果的にヒットさせるために、相手の注意をひきつけるフェイントとして打つジャブもあります。
相手にダメージを与える強いジャブ
最速のパンチと言われるジャブですが打ち方によって、体重が腕にのり破壊力を増すジャブもあります。スピードがある上に強力なジャブを打つことができれば、相手に効果的なダメージをより多く与えることができます。
このように、ジャブは試合を優位に進めるため、また相手にダメージを与えるためなどさまざまな要素を持っています。
これこそが、ジャブが「最も基本的でありながら最も重要なパンチ」と言われる所以です。
ジャブの名手たち
過去に世界チャンピオンに輝いた経歴を持つ、ジャブの名手を紹介します。
モハメド・アリ
「蝶のように舞い、蜂のように刺す!」、言わずと知れたジャブの名手。
鈍重(どんじゅう)な大男の、力任せな殴り合いであったヘビー級ボクシングに、華麗なフットワークと鋭いジャブを活用するアウトボクシングを持ち込み、WBA、WBC統一のヘビー級チャンピオンに輝いた経歴の持ち主。
1976年にプロレスラーのアントニオ猪木と対戦し、引き分けたことでも有名。
アイク・クォーティー選手
ガーナ出身のWBA世界ウェルター級チャンピオンに輝いた経歴を持つ実力者。
彼のジャブは世界トップレベルの威力を持っていて、速さはもちろん、重く、硬いジャブであるため、ジャブだけで対戦相手をKOしたこともあるほどです。
オスカー・デ・ラ・ホーヤ選手
アメリカ出身のオスカー・デ・ラ・ホーヤ選手は、アマチュアとしてバルセロナ五輪で金メダル、プロとしては史上初の6階級制覇を成し遂げた、驚くべき経歴を持っています。
彼の繰り出すジャブはとにかく速く、高速ジャブで相手の動きを完全に封じ、左右のボディからアッパーのコンビネーションなどで相手選手をマットに沈めてきました。
鈴木石松(ガッツ石松)選手
テレビなどでも人気のガッツ石松さんは、当時、日本人には不可能!と言われていたWBC世界ライト級チャンピオンに輝いた経歴を持っています。
「幻の右」で有名ですが、モハメド・アリから影響を受けたそのスタイルは当時の日本人選手としては珍しいアウトボクシング。幻の右をヒットさせるために、卓越された左(ジャブ)の存在があったことは言うまでもありません。
日本人のジャブの名手を挙げるとなると、「鈴木石松(当時のリングネーム)」の名前を挙げるコアなボクシングファンは少なくありません。
※アウトボクシング
「相手からのパンチが届かない距離を保って攻撃する機会をうかがい、チャンスの時に攻撃へ転じるボクシングの戦術」
まとめ
ボクシングで「左を制すものは世界を制す」という言葉の意味と、その理由を解説しました。左(ジャブ)はボクシングの基本でありながら、最も重要なパンチです。
「ジャブを極めることで、試合の主導権を握り相手を倒して、世界王者にもなれる」ということは、ジャブの名手と言われる方々が証明しています。
強烈なフックやストレートだけでなく「左(ジャブ)」に注目することで、これまで以上に、より深くボクシングを楽しむことができるのではないでしょうか。
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