スポーツ活動を通じて、礼儀やあいさつを習得する――。
多くの子ども向けチーム(クラブ)が志向しており、保護者もそれに期待しているようです。礼儀やあいさつの指導は、体力強化や技術向上と違って系統化されたモノサシがありません。指導者の考え方=属人性に依存する部分が大きい要素といえます。
今回は子どものスポーツチーム選びにおいて「礼儀やあいさつの習得」はどこまで重視すべきか、どこを見て判断すべきなのでしょうか。その現状とポイントをまとめてみました。
健康や協調性とならんで「礼儀」の習得も期待
お子さんが「スポーツをやりたい!」と言い出したとき、皆さんは何を期待しますか?スポーツをやらせたいと考えたとき、保護者は何を期待しているのでしょうか?
スポーツ庁が2017年に実施した調査によると、運動部員の保護者が部活動に最も期待することとして、「チームワーク・協調性・共感を味わう」が7割強、「社会性(あいさつ・礼儀など)を身につける」が6割弱ありました(対象は公立の中学生と高校生)。
ある民間の調査では、子どもの運動・スポーツに関して何を期待するかというという問いに対して、「じょうぶで健康な身体になる」が未就学児から高校2年生まで「とても期待する」が1位でした。
その一方で「人に対する礼儀やマナーを覚える」がどの年代でも上位にくいこみ、年代が上がるにつれてポイントが高くなる傾向が見て取れます。
健康や協調性とならんで、「礼儀」の習得に対する保護者の期待も高いことがうかがえます。
好きなスポーツのなかで友だちと一緒に礼儀を学ぶ
とくに団体競技において、目標やミッション(使命)、スローガンなどに「礼儀やあいさつを大事にする」と掲げているチームは多いようです。
実際に、お子さんが小学校高学年のときに少年野球チームに参加していたあるお母さんは「監督さんが礼儀やあいさつを厳しく指導してくださったので助かりました。うちは共働きの1人っ子。生意気盛りの年ごろで、どうしても甘やかしてしまう部分があったので」と言っています。
学校の先生や保護者から礼儀やあいさつを個別に指導されるよりも、好きなスポーツのなかで友だちと一緒に学ぶ方が、子どもにとっても受け止めやすいのかもしれませんね。
礼儀指導の基本は個人の考え方に依存する
スポーツによって、お子さんに礼儀やあいさつを習得してもらいたいという保護者の期待はよくわかります。しかし、それをスポーツチームに委ねる前に確認したいポイントがあります。礼儀やあいさつの指導の基本はチーム指導者の考え方であり、それがチームのやり方として行動に反映されるからです。
たとえば、こんな光景を見たことがあります。ある少年野球チームが練習試合をおこなったあと、相手チームがグラウンドから帰ろうとしていたときです。指導者が「さあみんな、一列に並んで」と子どもたちに声をかけました。
子どもたちは一列に並び、「さようなら」といいながら相手チームがグラウンドから見えなくなるまでずっと、帽子を振り続けていたのです。時間にして数分程度だったと思います。
広辞苑によると、礼儀とは「人間関係や社会生活の秩序を維持するために人が守るべき行動様式。とくに、敬意を表す作法」とあります。このチームの「あいさつ」は礼儀でしょうか。子どもたちが相手チームに敬意を表す行動様式として、適切なものだったでしょうか。
いろいろな見方があると思いますが、少なくともこの「あいさつ」がおこなわれていた数分間は、グラウンドに不思議な時間が流れていた気がします。
「人間力」を育てる場ではないという見方も
つまり、礼儀とあいさつの定義や表現方法は指導者の考え方=属人性に依存しており、チームごとに違っているのです。
お子さんが参加するチームを選ぶ場合には、指導者がどう考えて、どのようにチームや選手を導いているのかを確認することがとても大事になるでしょう。
公立進学校を何度か甲子園出場に導いたことがある、ある指導者(教員)は「野球部は『人間力』を育てるところではない」と、はっきり述べています。
そして、「あいさつして心の中では舌を出している子がいたり、監督がいなくなってタガが外れる子がいたりするかもしれない」としながら、野球は楽しみながらやることが原点で、勝つために指導者に抑えつけられてやるべきではないと語っています。
このような選手の自主性をベースとした指導は、公立の進学校だからこそ実現できるのだ、という指摘があります。それも事実かもしれません。
たとえば、小学生・中学生を対象にこのような指導が可能なのかは別の議論になると思いますが、実践して結果を出している指導者がいるということは覚えておく価値があると思います。
子どもの人生に大きな影響を与える可能性
筆者は高校まで硬式野球をやって、しごきやいじめにはほとんど遭わずに済みました。しかし、中学1年のときに部活の先輩から受けた唯一のしごき・いじめが、のちに転校する遠因になりました。
個人に対する集中攻撃だったので、ちょっと辛かったです。わたしがもともと生意気な性格だったことや、種目、時代、地域性も背景にあったと思いますが、直接のきっかけは「あいさつができていない」という先輩からの指摘でした。
いくら教えられた通りにあいさつしたつもりでも「違う」と。罰として練習しないでずっとグラウンドの周りを走っておけと。こんな極端な例は、いまではないと思いますが。
素晴らしい目標やミッションをいかに実践しているか
お子さんがどのような競技をやるにせよ、保護者は礼儀とあいさつを習得してほしいと願っているし、それを目標やミッションに掲げているチームは多いという事実。両者の目的意識は一致しているわけですが、もっとも大事なことは目標やミッションを達成するための具体的な指導(行動)です。
礼儀やあいさつを重んじる指導は、その基本的な考えや意味をきちんと子どもに伝えないと形ばかりを習得する結果となり、えてしてトラブルの元になりがちです。
一線級として活躍し、子ども向けチームの指導歴もある元プロアスリートは、「子ども向けスポーツチームが掲げる目標やミッションは素晴らしいものばかり。あとは実践すればいいだけですが、現状それがまったくできていない」と警鐘を鳴らしています。
チーム選びで抑えておきたい基本ポイント2つ
お子さんのチーム選びにおいて、礼儀やあいさつをどこまで重視すべきなのか。
まずは基本として以下2つのポイントを抑えてみてはいかがでしょうか。
礼儀やあいさつの習得を最大の目的にしないこと
スポーツをすることは、それだけで教育的な要素が含まれています。礼儀やあいさつは仲間と一緒にスポーツを楽しむ過程で習得できる、副次的な効果と考えてみてはいかがでしょう。
期待したくなる気持ちはよくわかりますが、「身についてくれたらうれしい」くらいにとらえておくと、子どもと保護者の両方がハッピーになるのではないでしょうか。
練習を必ず下見して“違和感”を確認すること
チームに参加する前に、必ず見学に行きましょう。そこで、チームの雰囲気を確認しましょう。
子どもたちは楽しそうにプレーしているか、指導者の人数や表情、言動はどうか、サポートしている保護者はどこまで介入しているのか。礼儀やあいさつを含めたチームのルール・約束が“無言の圧力”になっていないか、などを感じてみましょう。
まとめ
スポーツにおける礼儀やあいさつの指導はチームによってモノサシがばらばらで、その結果が子どもの人生に大きな影響を及ぼす可能性があります。
チーム選びにおいて礼儀やあいさつに代表される“チームカラー”はとても重要なポイントですが、子どもの目では判断できない部分があるでしょう。
チームの活動現場で保護者が受け取る“違和感”を大事にしながら、お子さんを交えてじっくり検討してみてください。
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