毎年プロ野球(NPB)のペナントレースでは終盤戦を迎えるにつれて優勝争いが白熱していますが、そういった時期になると、プロ野球を目指す有望なアマチュア選手をドラフトで獲得し、新たな戦力として期待する動きが活性化します。
また、2005年以降は、このドラフト会議に併せ、「育成ドラフト」という、将来を見据えた有望な若手発掘の制度も活用されています。
そして、2022年の12月から、新たな制度である「現役ドラフト」のという制度が開始されました。
この、耳に馴染みのない「現役ドラフト」について詳しく解説していきます。
現役ドラフトとは?
現役ドラフトとは一体何のことでしょうか?
この制度の趣旨は、普段自分が所属するNPBのチームで出場機会に恵まれない選手が、他チームに移籍することで心機一転、新たな活躍の場を得て活躍できることを目的とする制度です。
この制度を活用することで、実力があるのに様々なチーム事情によって必ずしも成績を残せていない選手の移籍を活性化させるとともに、他チームがこうした選手を指名して活躍の場を与え、戦力アップにつなげることが可能となります。
MLBの制度が参考に
現役ドラフトは、米国メジャーリーグ(MLB)がすでに導入している「ルール・ファイブ・ドラフト(Rule 5 draft)」を参考として制度化されたものです。
ルール・ファイブ・ドラフトは、実力がありながらも活躍の場が与えられない選手が、マイナーリーグで飼い殺し状態になることを防ぐために、他チーム所属の現役メジャーリーガーを指名して獲得できる制度で、毎年MLBシーズンが終了した12月に行われます。
現役ドラフト誕生の背景と経緯
現役ドラフトは、上述したとおり、出場機会を求める選手がレギュラーをつかむきっかけにもなり得る画期的な制度として注目されています。
1965年に導入され、長い歴史とドラマに彩(いろど)られたドラフト会議は、プロを目指す多くのアマチュア野球選手にとっての登竜門です。
そのドラフトで指名され、晴れてプロ入りした選手たちはそれぞれに強みがあり、高い能力を持っています。
その一方、所属チームのレギュラーポジションに空きがなかったり、同じポジションに実績ある有名選手がいるなどの理由で、なかなか試合に出る機会がない選手は少なくありません。
このような、所属選手とチームのミスマッチを解消するため、米大リーグの制度を参考として現役ドラフトが検討されるようになりました。
現役ドラフトは、労働組合日本プロ野球選手会の働きかけで実現しました。同選手会で2018年頃から議論がはじまり、2019年になって正式に日本野球機構に提案しました。
当時の炭谷銀仁朗会長(現楽天)は「(現役ドラフトを)1年でも早く実施すべき。野球選手にとっては1年1年が勝負なので、その1年で人生が変わる選手もいる」と訴え、導入を強く求めました。
こうした、選手側からの強い要望がNPBを動かし、今年の12月に実施される見込みの第1回現役ドラフトから、主力として活躍する選手が生まれる可能性もあります。
なお、大筋合意までには、一部球団の反対など紆余曲折もありました。しかし、反対理由はいずれも説得力がないもので、結局は双方の合意に至ったものです。
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現役ドラフトの主な仕組みとは?
今年は2023年12月8日に開催される予定の第2回現役ドラフト、その仕組みについて解説します。
現役ドラフトの仕組み
現役ドラフトの主な仕組みは次のとおりです。
・各球団が他球団から獲得できるのは1選手
・逆に流出するのも各球団1選手
・各球団が2人以上の選手リストを提出、全球団が1人ずつを獲得した時点で終了
・現役ドラフト対象選手は球団が選考
・現役ドラフト実施までにトレードを行った球団は、他球団へ移籍した人数を対象人数の8人から差し引く(3人以上のトレードが成立した場合でも最少人数は6人の予定)
・現役ドラフトでは各球団が最低1人を指名
・対象選手に配慮し、非公開で実施
・下記の条件を満たす選手は指名対象から除外される
□年俸5,000万円以上(1名なら5,000万以上~1億未満でも可能)
→5,000万円以上1億円未満の選手を対象としてリストアップした球団は、5,000万円未満の選手を追加し、3名以上の対象選手をリストアップしなければいけない。
□FA権行使歴のある選手
□FA資格、有資格者
□育成契約選手
□前年のシーズン終了以降に契約譲渡で獲得した選手
□シーズン終了後に育成契約から支配下契約になった選手
□外国人選手
現役ドラフトの指名順はどう決まる?
指名順を決める方法は極めてユニークであり、通常のドラフトや育成ドラフトでの指名方法と全く異なる点が注目されます。
最初に、全12球団が提出した選手を他球団がどれだけ欲しがるのか入札を行います。
そして、入札球団数の一番多かった球団から他球団選手の指名が始まり、逆にその球団に選手を獲られた球団に指名権が移って、12球団が終了するまで一巡するシステムです。
指名順は他球団が欲しがる選手を多くリストアップすればするほど有利になるので、より能力の高い選手を指名対象とさせる狙いがあります。
少しわかりにくいので、具体的な例を挙げてみましょう。
例えば巨人から選手が2名(A・Bとします)提出され、A選手に5球団からの入札、つまり買い手があったとします。
これが12球団で最多の入札数だった場合は、巨人に真っ先に指名権が与えられます。そして、巨人が阪神のC選手を指名すると、次の指名権は阪神に移り、続いて阪神が西武のD選手を指名すると、次は西武、という順番が繰り返されます。
なお、すでに指名の終わった球団の選手が指名された場合はリスタートとなり、未指名の球団の中で入札数の多い球団から指名が再開されます。
また、球団の方針であえて人気のない選手を提出すれば、結果的に指名順位が下がり、他球団の魅力的な選手を獲得するのが難しくなるデメリットが生じます。
この方式であれば、仮に1番目の指名権を逃したとしても、人気の高い選手を指名リストに挙げておけば、早めに選手を獲られることで指名権を得られます。
重要なのは、高い能力を持ちながらも埋もれている選手が、どれだけリストアップされるかという点であり、それをできるだけ実現させることにもつながっていきます。
2022年に行われた第1回現役ドラフト指名選手一覧
※2023ペナントレース最終成績順で紹介。
【阪神タイガース】
大竹耕太郎投手(福岡ソフトバンク)
【広島東洋カープ】
戸根千明投手(巨人)
【横浜DeNAベイスターズ】
笠原祥太郎投手(中日)
【読売ジャイアンツ】
オコエ瑠偉選手(東北楽天)
【東京ヤクルトスワローズ】
成田翔投手(千葉ロッテ)
【中日ドラゴンズ】
細川成也選手(横浜DeNA)
【オリックス・バファローズ】
渡邉大樹選手(東京ヤクルト)
【千葉ロッテマリーンズ】
大下誠一郎選手(オリックス)
【福岡ソフトバンクホークス】
古川侑利投手(北海道日本ハム)
【東北楽天イーグルス】
正隨優弥選手(広島)
【埼玉西武ライオンズ】
陽川尚将選手(阪神)
【北海道日本ハムファイターズ】
松岡洸希投手(埼玉西武)
DeNAから中日に移籍した規格外のパワーを持つ細川成也外野手は、DeNAではその大器の片鱗を活かせずにいたが、現役ドラフトで中日に移籍した2023シーズンは自己最多の24本塁打を活躍し、覚醒しました。
ソフトバンクから阪神に移った大竹耕太郎投手は12勝を挙げ、優勝に大きく貢献し、虎党の心を掴みました。
現役ドラフトの課題
現役ドラフトには課題や不安もあります。
前述のとおり、戦力外の選手を放出する目的でリストアップする球団が出ると、制度の趣旨に反し、現役ドラフトそのものが形骸化します。
NPBが参考としたMLBのルール5ドラフトでは、メジャー40人枠外から19歳以上は4年、18歳以下は5年の経過後にドラフトされ、1シーズンはベンチ入り26人枠に入れることが義務付けられており、違反した場合は罰金を払い旧球団へ復帰させることが定められています。
現役ドラフトには現在このような罰則は設けられておらず、制度を形骸化させないためにも、ペナルティなどを含めた、良心的で厳格な制度運営が望まれます。
また、2022年の現役ドラフトで指名された選手の内、そのうち6選手に2023年での戦力外が言い渡されているのも課題に一つ。
活躍を期待されて移籍した選手たちだが、実際は厳しい結果を迎えている選手が半数以上となっている。
まとめ
いよいよ12月8日(金)に開催される第2回NPB現役ドラフト。開催に向けた準備は整ってきております。
埋もれた選手がより多くリストアップされ、活躍の道が開けることを期待したいものです。
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