柔道の試合では当然のように存在する「階級」。
これはボクシングやレスリングと同じように体重でクラス分けをする制度です。
しかしそもそも武道の1つである柔道に、体重別の階級という考えはあったのでしょうか。
ここでは、柔道の階級についてご紹介します。
【柔道】階級制度が生まれた経緯
創始者・嘉納治五郎の思想
柔道の創始者は嘉納治五郎という人物。
彼は明治初期にさまざまな柔術を組み合わせ、さらに文明開化の時代にも合ったものとして柔道を生み出しました。
以前は武士の殺人術でもあった柔術を安全で人格形成に役立つ武道に変革。
さらにスポーツとして世界に広めようと尽力しました。
体重別という発想
嘉納治五郎の柔道思想は「柔よく剛を制す」。
体重が重い者は一般的に力も強いが、相手の力を利用して制するのが柔道であるため、軽い者の方が強いこともあるという考えでした。
しかし体重別という発想がなかったわけではなく、彼は「軽量の者から希望があれば、体重制の試合をしても良いが案外軽量の者が強く、希望する者がいないからやらないのだ」と述べています。
またヨーロッパで柔道指導をした際には「体重制もわるくないが、身体の小さい、目方の少ない日本人から、体重制にしてほしいといってはいけない。身体の小さい目方の少ない日本人が一番柔道は強いのだからな」とも発言。
体重別の階級制を理解はしつつも保留していたと考えられています。
体重別階級制度への賛否
その柔道で体重制について真剣に議論されるようになったのは、戦後のことです。
第2次世界大戦後、GHQは軍事的教育に通じる武道を全面的に禁止していましたが、その後、スポーツとして行うことで復活が認められました。
中でもスムースに競技化が進んだのが柔道です。
それは嘉納治五郎の思想の中に、そもそもスポーツとしての柔道という考え方があったため。
一方、柔道を競技化するためには体重別の階級制度は避けては通れない課題でした。
これに対しては柔道界の各所から賛否両論が噴出。
保守派は「柔よく剛を制すという柔道の本質を壊す」と主張したほか、「互いに学び合うのが柔道の理念なのに、体重区分で相手を制限するのは間違っている」とも述べました。
一方の革新派からは「体重は力。柔よく剛を制すには限界があり、合理的ではない」などの意見が。
やがてスポーツとして定着させるためには体重区分は必要という声が大きくなり、国内の意見は階級制賛成へと大きく傾いていきました。
体重別階級制度が定着
体重別階級制度が初めて世界的に議論されたのは、柔道が正式競技として初採用された東京オリンピックでした。
これ以前、ドイツ、イタリアは「スポーツにとって体重別は必要」と主張し、イギリス、フランス、ベルギーは「体重別は武術ではない」と体重無差別を主張していました。
そこで影響力を持ったのが、柔道の創始国である日本。オリンピック総会で日本は、体重別階級制度の導入を主張しました。
その結果、当初はイギリスのみ反対していましたが、最終的に採用が決定。これをきっかけに体重別階級制度が定着していきました。
東京オリンピックでの階級
1964年の東京オリンピックで、柔道は男子のみの競技として採用されました。
このときの階級は4つ。
軽量級(68kg以下)、中量級(80kg以下)、重量級(80kg超)、無差別級(体重制限なし)でした。
日本は軽量級、中量級、重量級で金メダルを獲得。
しかし「これこそが柔道」と挑んだ無差別級では、オランダのヘーシング選手に敗れます。
彼は身長198cm、体重120kgの巨漢。
それは体重別階級制度の必要性が証明された瞬間でもありましたが、へーシング選手の勝利は柔道の国際化に大きく貢献したと言われています。
ちなみに現在オリンピックで採用されている、一方が青の柔道着を着るというルールは、国際オリンピック委員になったヘーシング氏が「誤審を防げる」と主張して採用されたそうです。
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【柔道】階級 なぜ体重別?
では柔道の階級はなぜ体重別になったのでしょうか。
その理由は、力と圧力、そして何よりも安全性の問題だとされています。
筋肉量によって体重が決まるスポーツ選手の場合、体重=力となるのが一般的。
柔道は技を競いますが、それでも力で崩されれば勝つことは難しいのです。
また柔道には寝技もあるため、重い体重で圧力をかけて抑え込める選手の方が圧倒的に有利となってしまうのです。
安全性については、正しい投げ方をしていれば危険性は高くないとされています。
しかし故意に体重をかけて崩れる、無理やり投げるなどの無謀な技は受け身を取ることも難しくとても危険。
その危険性は体重差が大きくなるほど増してしまいます。
そのため階級には体重制が採用されているのです。
柔道】階級の現在
当初は3つのクラス分けと無差別級から始まった柔道の階級。
1997年までは日本国内と国際試合では体重の区分が違いましたが、現在は同じ7階級になっています。
男子の階級
現在の男子の階級は、以下のようになっています。
60kg以下級(超軽量級)
66kg以下級(軽軽量級)
73kg以下級(軽量級)
81kg以下級(軽中量級)
90kg以下級(中量級)
100kg以下級(軽重量級)
100kg超級(重量級)
かつての東京オリンピックの頃と比べると、より体重の重いクラスが増加。
無差別級は1988年のソウルオリンピック以降、オリンピックでは採用されていません。
女子の階級
現在の女子の階級は、以下のようになっています。
48kg以下級(超軽量級)
52kg以下級(軽軽量級)
57kg以下級(軽量級)
63kg以下級(軽中量級)
70kg以下級(中量級)
78kg以下級(軽重量級)
78kg超級(重量級)
無差別級
オリンピックでは消滅した無差別級ですが、世界選手権大会では現在も採用されています。
また国内では全日本柔道選手権大会は体重無差別で開催。
この大会は事実上の柔道家日本一決定戦となっています。
まとめ
全日本柔道選手権大会の歴代優勝者はほとんどが重量級の選手。
このことからも体重別階級制度が必要だったことが分かります。
しかし1967年と69年には当時の80kg以下級(中量級)だった岡野功選手、72年にも同じく中量級の関根忍選手が優勝。
1990年には当時の71kg以下級(軽量級)だった古賀稔彦選手が大柄な選手を次々に投げ飛ばして準優勝しています。
体重別階級制度が一般的となった今も、「柔よく剛を制す」という柔道の本質は消えてはいないと言えるのではないでしょうか。
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