野球の打者には三冠王がありますが、同じように投手にもあるのが、「投手五冠」です。
打者の三冠は首位打者・本塁打王・打点王。では投手の五冠は何を表しているのでしょうか。
今回は、投手五冠を解説。
歴代の達成者やその難易度についてもご紹介します。
【プロ野球】投手五冠とは
日本プロ野球の投手タイトルは6つあります。
それは最多勝利、最高勝率、最優秀防御率、最多奪三振、最優秀中継ぎ投手、そして最多セーブ投手。
メジャーリーグ(MLB)では1シーズンに1人の投手が最多勝利・最優秀防御率・最多奪三振の3つのタイトルを獲得することを三冠王と言います。
しかし日本プロ野球にはその定義はありません。
あえて言えば2000年代まで、最多勝利・最優秀防御率・最高勝率を投手三冠と表現していたくらい。
では投手五冠に当たるのはどのタイトルなのでしょうか。
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5つめのタイトル
ここでもう一度、投手の6つのタイトルを見てみましょう。
最多勝利、最高勝率、最優秀防御率、最多奪三振、最優秀中継ぎ投手、最多セーブ投手です。
このうち最優秀中継ぎ投手は当然ながら中継ぎ投手が受賞するもの。最多セーブ投手は抑え投手が受賞することになります。
そして他の4つが主に先発投手の賞です。
ということは先発投手が四冠を達成できるのが最高になるはず。五冠とはいったい何なのでしょうか。
それは最多勝利、最高勝率、最優秀防御率、最多奪三振に、タイトルにはない最多完封を加えたものなのです。
提唱者
実は投手が複数のタイトルを独占することについて、投手◯冠という統一された称号はありません。
最多勝利、最高勝率、最優秀防御率、最多奪三振で四冠と呼ぶのが最も一般的な称号。
これに対してスポーツライターの宇佐美徹也氏が「四冠に最多完封を加えて投手五冠王と呼んではどうだろう」と提唱したのです。
これが近年は定着。投手五冠という報道も多く見られるようになりました。
【プロ野球】投手五冠 達成者
では過去に投手五冠を達成したのはどのような投手なのでしょうか。
まずはその成績一覧からご紹介します。
投手五冠一覧
年度 投手名 所属 防御率 勝利 勝率 奪三振 完封
1937春 沢村栄治 巨人 0.81 24 .857 196 7
1938秋 スタルヒン 巨人 1.05 19 .905 146 7
1943 藤本英雄 巨人 0.73 34 .756 253 19
1954 杉下茂 中日 1.39 32 .727 273 7
1959 杉浦忠 南海 1.40 38 .905 336 9
1981 江川卓 巨人 2.29 20 .769 221 7
2006 斉藤和巳 ソフトバンク 1.75 18 .783 205 5
2021 山本由伸 オリックス 1.39 18 .783 206 4
2022 山本由伸 オリックス 1.68 15 .750 205 2
過去に達成しているのはわずか8人。
2度達成しているのは、山本由伸投手のみです。
難易度
過去に8人しか達成していないことから、この記録がいかに難しいかは容易に想像できるもの。
投手五冠という言葉を提唱した宇佐美徹也氏は「打者の三冠王に匹敵する栄誉」として投手五冠を提唱したのですが、その打者の三冠王も過去に8人(12回)が達成しています。
まさに打者の三冠王に匹敵する難しさ。
ちなみに完封を除いた投手四冠ですら、達成した投手はこの8人に加えて稲尾和久投手、木田勇投手、野茂英雄投手、上原浩治投手の4人のみ。
金田正一投手や松坂大輔投手、ダルビッシュ有投手など、世代を代表する投手も達成できていないのです。
沢村栄治
沢村栄治投手は東京ジャイアンツ発足当時の名投手。日米野球でも活躍し、日本野球創生期の象徴となっています。
日本プロ野球史上初のノーヒットノーランも達成。
しかし1938年に徴兵され、1940年まで出征すると、以前のような投球ができなくなってしまいました。
通算105試合登板で63勝22敗、554奪三振を記録。
ノーヒットノーランを3度も記録した彼は、沢村賞にその名を残しています。
スタルヒン
ヴィクトル・スタルヒン投手は191cmの長身から投げ下ろす剛速球とカーブで東京ジャイアンツ第一次黄金時代の主力となった投手。
その後、様々なチームを渡り歩き、高橋ユニオンズ時代に日本初の300勝を達成しています。
五冠王となった翌年の1939年には42勝を達成。これはプロ野球タイ記録です。
通算586試合登板で303勝176敗、1960奪三振を記録しています。
藤本英雄
藤本英雄投手は明大のスター選手として鳴り物入りで巨人に入団した投手。
2年目に投手五冠を達成すると、3年目からはなんと監督兼任投手となりました。
その後は肩の故障もあり、外野手に転向した時期もありましたが、スライダーを習得して投手に復帰。1975年には日本プロ野球史上初の完全試合も達成しています。
通算成績は367試合登板で200勝87敗、1177奪三振を記録です。
杉下茂
杉下茂投手はフォークボールと快速球を武器に一時代を築いた大投手。五冠を達成した1954年には中日をセ・リーグ初優勝に導き、日本シリーズでも連投して制覇の原動力となりました。
引退後は中日、大毎、阪神、巨人のコーチ、監督を歴任。
通算525試合登板で215勝123敗、1761奪三振を記録しています。
杉浦忠
杉浦忠投手は下手投げの速球と大きく曲がるカーブを駆使した投手。
南海に入団1年目から27勝を上げ新人王を獲得しました。五冠達成の1959年には、なんと日本シリーズでも巨人戦全4試合に登板し、4連勝。史上唯一の偉業を達成しています。
通算成績は577試合登板で187勝106敗、1756奪三振です。
江川卓
江川卓投手は高校時代にノーヒット・ノーラン12回、145回無失点など数々の記録を達成し注目を集めた怪物。六大学野球では1年生からエースとして活躍し、在学中4連覇、17完封、通算47勝を挙げました。
巨人に入団後、2年目で最多勝利と最多奪三振を獲得。3年目に投手五冠に輝きました。にもかかわらず、新聞記者の投票で選ばれる沢村賞は巨人の同僚の西本聖投手が受賞。江川投手には多くの同情が集まりました。
通算成績は266試合登板で135勝72敗、1366奪三振です。
斉藤和巳
斉藤和巳投手はパ・リーグ史上初の2度の沢村賞に輝いた投手。
2003年に初の開幕投手を務めると、先発登板16連勝という記録を達成。この年には最多勝、最優秀防御率、最高勝率、ベストナイン、沢村賞などタイトルを総なめにし、チームのリーグ優勝、日本一に大きく貢献しました。そして2006年には投手五冠を達成して2度目の沢村賞を受賞。
その後は怪我に苦しみながらも現役を続け、2013年に惜しまれながら引退しました。
通算成績は150試合登板で79勝23敗、846奪三振。勝率.775を誇り、「負けないピッチャー」と言われました。
山本由伸
史上初となる2度の投手五冠を達成した山本由伸投手は、2018年に中継ぎとして1軍デビュー。3年目から先発に転向すると、初の開幕投手を務めた2021年にシーズン15連勝を記録するなどチームの25年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献しました。
この年に投手五冠を達成すると、翌2022年はノーヒットノーランも記録。再び投手五冠に輝き、チームのリーグ連覇、26年ぶり日本一達成の立役者となりました。
この2年には最優秀選手賞(MVP)、ベストナイン賞(投手)、沢村栄治賞、三井ゴールデン・グラブ賞(投手)も受賞しています。
まとめ
達成は非常に難しいと言われる投手五冠。
2年連続で達成した山本由伸投手はまさに驚異的だと言えます。
打者の三冠王に匹敵すると言われる投手五冠ですが、その決定後の対決は2022年の日本シリーズで初めて実現しています。
打者三冠王がヤクルトの村上宗隆選手、投手五冠がオリックスの山本由伸投手。
2022年10月22日の日本シリーズ第1戦で対峙すると、第1打席はフォアボール、第2打席は1塁ゴロという結果になりました。
打撃三冠王対投手五冠の夢の対決、次はいったいいつ見られるのでしょうか。
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