2021年、米国MLBで「満票」によるMVPを獲得し、素晴らしい大活躍をした大谷翔平選手は、世界中に大きなインパクトと感動を与えました。
その大谷選手が打者として取り入れたのが「フライボール革命」による最新の打撃技術です。
これについてみていきましょう。
フライボール革命とは?
米国のメジャーリーグベースボール(MLB)では、2017年頃から「フライボール革命」と呼ばれる現象が起きました。
従来、打者はダウンスイングまたはレベルスイングによって「ボールを転がすべき」とされてきました。
その理由は、ゴロを転がすことによって内野安打などを含めて打者が出塁できる可能性が高くなり、結果としてチームの勝利に貢献できると考えられていたからです。
こうした考え方に対して、ボールを下から上へと打ち上げた方が、ホームランを含めた安打になる可能性が高く、総合的にチームに貢献する割合がより一層高まるとする考え方が、フライボール革命です。
この考え方が主流となった背景には、2015年からMLBで全面導入された「スタットキャスト」という、グラウンド上の選手やボールの動きを分析するデータ解析ツールの影響があります。
単純な打席での結果だけではなく、打球の速さや、打つ瞬間の画像などで分析できるようになり、フライボールの価値が見直され、その結果としてフライボール革命が広まっていったのです。
プロ野球における最新トレンドとは
フライボール革命に伴い、打者はゴロをさばく内野の守備シフトを超えて、長打狙いの角度をつける打法へと変化を進めています。
明確な分析ツールを活用することで、膨大なデータから打球方向の特徴も見えてくるようになった結果、現在MLBでは「従来常識だった守備の定位置って何?」と思うぐらい極端な守備シフトを敷く球団が多い状況ですが、これは前述したスタットキャストの影響を大きく受けていることによります。
MLB・大谷翔平も取り入れたフライボール革命
MLB・エンゼルスの大谷翔平選手(右投げ左打ち)に対する守備シフトを見ると、三塁側には誰も守らずに、全体的に右側に寄っています。
こうした極端なシフトでは、ゴロの打球を打った場合の多くはまんまと守備シフトに引っかかってしまい、その結果としてヒットが生まれる確率が低くなってきます。
こうした状況下では、打球の角度を上げて、シフトを超える長打を狙ったほうが効果的です。
その結果、1試合4打席のうち3打席で三振しても、残り1打席のホームランのほうが価値があるという考え方も、フライボール革命が浸透した背景といえるでしょう。
大谷選手のバッティングスタイル
まさに、現在の大谷選手のバッティングスタイルがこの考え方を裏付けています。
空振りや三振でも問題ないとするのがMLBの中心的な考え方で、打球速度を高めようとするには強いスイングが絶対的に必要になります。
大谷選手の場合も、ファーストストライクからボールを強振しています。
カウントが追い込まれるほど、バッターは様々な球種やコースを待つこととなり、必然的に打率が下がっていきます。
また、カウント別の打球速度を分析すると明らかなように、2ストライク時よりも0ストライク時のほうが打球が速いのです。
大谷翔平がホームランを打つと、世界中の野球ファンに感動を与えます。
その結果、アジア人初の歴史的な大活躍が更なる熱狂を生み出しています。
フライボール革命の課題と問題点
MLBのみならず世界的に野球におけるバッティングの主流となったフライボール革命ですが、課題や問題点も抱えています。
これについて分析します。
MLBの低打率・多三振現象
フライボール革命が本格化した2021年のMLBでは、3割打者がアリーグとナリーグ合わせてわずか14人と、非常に少ない状況でした。
これはフライボール革命の「反作用」ともいえる現象で、低打率・多三振の長距離打者が多くなった事実として指摘されています。
昨年の結果から少し分析してみましょう。
大谷翔平選手は46本塁打を打ちましたが、打率(.257)が低く、三振数(189)も非常に多い状況です。
その他の主なMLB主軸選手についても類似の現象があるので、下記に挙げてみます。
・アダム・デュヴァル(ブレーヴス):38本塁打、打率.228、174三振
・カイル・シーガー(マリナーズ):35本塁打、打率.212、161三振
・マット・チャップマン(アスレティックス):27本塁打、打率.210、202三振
・ジョーイ・ギャロ(ヤンキース):38本塁打、打率.199、三振213、四球111(三振数・四球数ともにリーグトップ)
歯止めのかからない低打率傾向
MLBにおけるこうした現状から、今後の大きな問題点として挙げられるのが、フライボール革命の副反応ともいうべき「低打率現象」がいつまで続くのかという問題です。
データをみると、2021年のMLB平均打率は.244と、1969年以降では最低打率でした。
かつてMLBを席巻したイチロー選手がMLBデビューした2001年には、MLB全体の平均打率が.264で、規定打席数に到達した3割打者は両リーグ合わせて46人と、昨年の3倍以上いた上に、規定打席数に到達して打率が2割以下の選手はひとりもいませんでした。
その反面、本塁打数は5458本(2001年)から5944本(21年)へと増加し、三振数は、32404から42145にまで激増しました。
まとめ
MLBにおけるこうした傾向は今後も継続するのでしょうか。
あるいは、現状への危機感から何らかの軌道修正が行われ、打撃トレンドに何らかの変化が生じるのでしょうか。
野球における最大の醍醐味のひとつである、ホームランの快楽を全世界に改めて新鮮に伝えてくれた大谷翔平選手の今後の活躍を期待しながら、今後の状況を見守りたいものです。
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