夏のレジャーと言った時に、やはり海やプールを思い浮かべる人は少なくないのではないでしょうか。
暑い時期だからこそ、冷たい水の中に入って体を冷やしたいものです。
波に揺られながらまったりと景色を楽しむのもよし、友達や家族、恋人と一緒に流れるプールに流されていくのもよし。
あるいはジムのプールで、思いきり泳いで体を鍛えたくなるという人もいるのではないでしょうか。
水泳の競技はオリンピックにもいくつかありますが、特に多くの方が真っ先に思い浮かべるのは競泳でしょう。
いくつもの球技とは違い、一人でも実践練習ができるというのも魅力の一つです。
国によっては、プールではなく海で練習している選手もいるかもしれません。
そんな競泳は、世界でも屈指の人気スポーツでもあります。
この競技、パラリンピックでも注目されつつあることを皆さんはご存知でしょうか。
競泳についてはよく観戦するけれど、パラリンピックの競泳とオリンピックの競泳がどう違うのかはよく知らない、という人もいるのではないでしょうか。
今回は、そんなパラリンピックの競泳について、詳しく解説していきます。
競泳の歴史とは?
人間は生まれつき“泳げない生き物”であると言われています。
実際、魚のようにヒレがあるわけでもなく、水の中で呼吸する術を持っているわけでもありません。
しかし、古来より人は“泳げないなりに泳ぐ方法”を身に付けることにより、狩りをして、豊富な海や川の資源から食糧を得ていたと考えられています。
しかし、オリンピックの前身である古代オリンピックには、競泳という競技はありませんでした。
走る競技の方が、ずっと長い歴史を持っているのです。
では、そんな泳ぐ、ということが競技化されたのはいつのことなのでしょうか。
記録に残っている最初の競泳の大会は、1837年のイギリスで行われたと言われています。
さらに約60年後、1896年の第1回アテネオリンピックにて競泳が正式種目として採用されることになりました。
ただし、この時の種目は「自由形」のみ。
そして実質、アテネ五輪の自由形は“平泳ぎ”が選択されていたと言われています。
その後、次いで生まれた“背泳ぎ”が、競泳の世界において人気を博しました。
その結果、第2回のパリ大会では“背泳ぎ”が新たに種目として採用されことになります。
さらにこの次には“クロール”が登場します。
その結果、第3回のセントルイス大会から“平泳ぎ”は独立種目となり、“自由形”は基本的にクロールで泳ぐものだという風潮が一気に高まりました。
残る泳法である“バタフライ”は“平泳ぎ”から発展することによって生まれたと言われています。
“平泳ぎ”の種目においてバタフライ泳法を採用する選手が増えたことにより、1956年のメルボルン五輪から“バタフライ”が独立種目として採用されることになりました。
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競泳ってどんな競技?
そんな競泳は、日本でも圧倒的人気スポーツだと知られています。
なんと、現在の日本の水泳人口は約1300万というとんでもない数字を誇り、子供の習い事ランキングでも1位を取るほどの人気ぶりです。
そんな競泳は、一般的に10レーン、もしくは8レーンからなる50mの長水路または25mの短水路のプールで行われることになります。
オリンピックでは基本的に50mのプールが採用されていることでしょう。
意外と思う人が多いかもしれませんが、実は25mプールはターン回数が多く、50mプールよりも好記録になる傾向にあるのです。
その結果、競技を行う場合は25mと50mのプールは別々に大会を行う、または記録を取らなければいけないのです。
個人種目としては、現在“自由形”“背泳ぎ”“平泳ぎ“”バタフライ“の4種類の泳法が採用されており、さらに4つの泳法を順番に泳ぐ“個人メドレー”があります。
距離は自由形の場合、50m、100m、200m、400m、800m、1500mの6種類が基本です。
ただし多くの大会では長らく女子の1500mと男子の800mは省略されてきました。
2020年東京オリンピックの正式種目からは、これらの種目も採用されています。
なお、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライの泳法においては50m、100m、200mがあります。個人メドレーの場合は200mと400mとなっています。
ちなみに競泳の場合、公平性もかねて水着などには細かな規定があります。
オリンピックとパラリンピック、2つの競泳の違いとは?
そんなオリンピックの競泳と、パラリンピックの競泳にはどのような違いがあるのでしょうか。
基本的なルールは、オリンピックで行われる一般の競泳と違いはありません。
ただし、パラリンピックには様々な障害を持った選手がいるため、それぞれの選手にあったサポートが必要になります。
その最たるところが、ターンとゴールタッチにおける特例でしょう。
一般の水泳においては、平泳ぎとバタフライの2つの泳法の場合、ターンやゴールタッチを両手でしなければいけないという規定があります。
例えば、選手によっては切断などで左右の手の長さなどが異なる場合があるでしょう。
こういった選手は物理的に、両手で同時タッチということが不可能です。
よってもう一方の腕も同時に伸ばしていれば、先行する手のみでのタッチが認められるということになっています。
また、中には両腕に障害があり、上肢を伸ばしても頭より短い選手もいます。
その場合は、体の上半身のどの部分でタッチしても良いのです。
頭で壁にタッチしてもターンやゴールが認められることになります。
他にも、バランスに問題がある選手や重度の障害のある選手などの場合、スタート時に介助者による補助や工夫をしてもいいということになっています。
パラリンピック・競泳の特別なルールについて。
他にも、パラリンピック競泳特有のルールが存在しています。
例えば、視覚障害のクラスが顕著です。
眼がはっきりと見えない、もしくはまったく見えない選手がまっすぐ泳ぎ続けるのはかなりの技術が必要になります。
よって、タッパーと呼ばれる特別な補助者がつきます。
彼等はタッピング棒と呼ばれる長い棒状の道具を使用して選手に合図を送るという、タッピングという行為をして選手の安全を守るのです。
彼等は選手が壁に向かって全力で進んでいく際、安全を確保したり恐怖心を取り除いたりするために、壁が近いことを選手の体の一部を叩いて知らせるのが役目です。
全盲の選手は、このタッパーをつけることが義務付けられており、弱視の選手の場合は任意となっています。
リレーの引き継ぎは2人のタッパーを置くことにより、タッチと引継ぎを知らせる役割分担を行うことが許されています。
正確なタッピングができるタッパーがいるかどうかで、選手の記録は大きく左右されるため、コーチと二人三脚の練習が必要不可欠と言われています。
また、目が見えない選手はコースアウトしてしまうことも充分に考えられます。
一般の競泳ではコースアウト=逸脱した時点で失格になってしまいますが、パラリンピック競泳の視覚障害のクラスの場合は、スタート後やターン後に誤って他のレーンに入ってしまった場合でも、そのレーンでゴールすることが認められています。
また、競泳においてもそれぞれの障害と泳法にあわせたクラス分けがされており、泳法のカテゴリーを示すアルファベットと障害の種類と程度を示す数字の組み合わせによって表現されます。
S8と表記された場合は、S=自由形(実質クロール)、背泳ぎ、バタフライのいずれかの選手であり、8は身体障害者のうち1から10に分けられた中の8の程度の選手ということになります。
数字が大きいほど障害が軽いことになります。
ちなみに、視覚障害の場合は11~13、知的障害の場合は14と表記されます。
視覚障害の場合、11が全盲です。
また平泳ぎは下肢の動かし方が独特ということから背泳ぎなどとクラスを明確にわけられており、例えばSB11と表記された場合は平泳ぎの全盲の選手ということになるのです。
パラ競泳における、注目の日本人選手!
やはり、鈴木孝幸選手の活躍は有名でしょう。
高校生で2004年アテネパラリンピックに出場して以降、2016年リオデジャネイロ大会まで4大会連続でパラリンピックに出場しました。
その中で、金メダルを含む5つのメダルを獲得するという快挙を成し遂げています。
また、女子では辻内彩野選手のことも忘れてはいけません。
2021に行われた第37回日本パラ水泳選手権大会においては、50m自由形と100m自由形で日本新記録を樹立しています。
また、東京パラリンピックにおいても50m自由形7位という成績を収めており、これからますます活躍が期待されている若手選手となっています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。パラリンピックにおいてもますます盛り上がりを見せる競泳の魅力。気になった方はぜひ、さらに詳しくチェックしてみてください!
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