氷上競技の花形とも言うべき、フィギュアスケート。
テレビやインターネットの記事などで、一度もその競技を見たことがないという人はごくわずかでしょう。
艶やかな衣装を身に着け、音楽に乗って舞い踊るその姿は、いつも私達に新たな感動と驚きを与えてくれます。
それぞれで選んだ音楽をいかに自分達で料理し、表現するか。
そして多くの技の中から、曲と自分にあったものを選んで練習し、ここぞというタイミングで魅せることができるか。
オリンピックなどの本番でその場所に立つまでの間に、選手達が凄まじいまでの努力を重ねているのは言うまでもありません。
フィギュアで最も目をひくのはやはり選手の技ですが、フィギュアを知れば知るほど興味がわいてくるもののひとつが彼等の使用する音楽についてでしょう。
果たして彼等はどのような基準で音楽を選び、選ばれることの多い曲はあるのでしょうか。
そして、こういう曲を選んではいけない、などの規定はあるのでしょうか。
今回は、そんなフィギュアスケートを彩る音楽について紹介します。
フィギュアスケートの音楽にはどんな規定があるの?
まず、フィギュアスケートの音楽にどんなルールがあるかをご説明いたします。
フィギュアスケートの音楽は全て演技時間と同じだけの長さで演奏されることになるので、音楽の長さ=演技時間でなければいけません。
正確には、音楽の長さはプラスマイナス1秒までは問題なしと見なされるようです。
ちなみに、演技の時間は以下の通り。
男子・女子シングルのショートプログラムでは2分50秒。フリースケーティングでは4分。(ちなみに以前は男子のフリーは4分30秒で、女子よりも30秒長くなっていました)。
ペアはショートプログラムが2分40秒、フリースケーティング が4分30秒。
アイスダンスではショートダンスが2分50秒であり、フリーダンスが4分というルールになっています。
音楽はこの時間で綺麗に終わるものを選ぶ必要があり、選手はこの時間の中で必要な技を構成し、曲を自分のセンスで演出できるのかを考える必要があるのです。
選曲は全て選手の自由となっていますが、アイスダンスのリズムダンスの場合は“シーズン毎に指定されるリズムとテーマに合わせ、規定要素が含まれたプログラムを滑走すること”と規定されており、少々複雑となっています。
2021/22シーズンについては以下のリズムが選定されました。
“ストリートダンス・リズムでは以下に示す例から異なるリズムを2種類以上用いること。
ヒップホップ、ディスコ、スウィング、クランプ、ポップ、ファンクなど、ジャズ、レゲエ(レゲトン)、ブルースのいずれか”とのことです。
もちろんスポーツ倫理の観点から、攻撃的もしくは不快感をもたらす歌詞が含まれる音楽は用いないこと。と注釈がついています。
他にも細かく課題やルールが決まっているため、アイスダンスに転向した選手はその制約の多さに戸惑うことも多いことでしょう。
ちなみに、かつてアイスダンス以外では歌入りの音楽は減点対象(-1点)となっていました。
それが2014-15シーズンより改定され、使用して良いことになったようです。
これにより2014年12月のISUグランプリファイナルでは、早くも男女シングル12人のうち9人が歌入りの音楽を使用しました。
本当はずっと歌入りの曲を使いたかった!と思っていた人は多かったということなのかもしれません。
フィギュアスケートの音楽って実は……!
フィギュアの音楽は、ルールに則って時間ぴったりに終わるようにしなければいけない、というのは先述した通りです。
しかし選手によっては、時間ぴったりに終わらない曲だけれどどうしてもこれを演技で使いたい!と考える人もいることでしょう。
そもそも、2分50秒で綺麗に終わる曲なんてそんなに多くないのでは?と思うかもしれません。
実は、フィギュアで使われる多くの曲は演技に合わせて編曲や編集が行われているのです。
というのも、時間ぴったりに望んだ曲が終わらないという問題もさながら、曲の中にて既定のジャンプやステップを盛り込みながら見せ場を作りつつ、観客や審査員を引き込んでいくことが求められるからです。
例えばフィギュアスケート男子シングルの場合、曲選びに関する規定は現在ほとんど無いと言っても過言ではありません。しかし、演技の内容ともなると話が別です。
規定では“ジャンプ、スピン、ステップからなる合計7つの要素で構成されたプログラムを滑走”と書かれており、他にも“トリプルアクセルをアクセルジャンプとして行った場合、単独のジャンプまたはジャンプ・コンビネーションで繰り返し行うことはできない”などといった細かなルールがあります。
いくら華やかな技をたくさん構成したいと考えても、曲とマッチしていなければ良い印象を与えないことは明白です。
このジャンプはこの曲のこの部分で飛ぶのが相応しい、この部分が繰り返し演奏されたのであれば何度もジャンプをしても違和感がない――などなど。
それらの希望を叶えるためには曲選びはもちろんのこと、この編曲作業も重要なのです。
求められる課題をクリアするために同じ小節を繰り返したり、一部を省略したり。時にはスポーツ競技としての完璧さを求めるべく、音楽の芸術性を犠牲にしなければならないこともあるのだそうです。
フィギュアスケートでよく使われる音楽って?
歌入りの曲をアイスダンス以外でも使っていい、となったことで以前よりも遥かにフィギュアスケートの音楽は自由に選ぶことができるようになりました。
しかし、当然ながら選手にとって扱いやすい曲、扱いにくい曲があることは明白です。
それこそ、ずっとゆったりと流れ続ける曲、盛り上がりに欠ける曲や印象に残りにくい曲などを選ぶことは難しいでしょう。
では、逆にそんな選手達に特に好まれる曲というものはあるのでしょうか?
例えばラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調」は日本人選手だけでも過去に4人、海外選手も合わせると非常に多くのフィギュアスケーターたちに選ばれている曲だと言われています(2017年11月時点)。
第1楽章の導入は、ロシア正教会の鐘の音をイメージしたといわれるピアノ・ソロから始まります。
厳かな和音の連打がどんどん大きくなっていき、最高潮に達したところで弦楽合奏が加わってメロディに切なさを漂わせます。
神秘的かつ叙情的で、ラフマニノフの出身地であるロシアを彷彿とさせるこの曲は、彼の出世作でもあるそうです。
その他、ショパンの「バラード 第1番 ト短調」や「幻想即興曲」もよく扱われる曲だと言われています。
物語の要素が色濃く出るオペラ曲もまた、選手の自由な表現力が試されることもあり多く用いられます。
フィギュアスケートの音楽、著作権は大丈夫?
ちなみに、言うまでもなく音楽にも著作権、使用権などはあります。
著作者が亡くなって一定期間をすぎているなどで既に消滅しているものを除き、当然著作権保持者への使用料が発生することになります。
フィギュアスケートにおける音楽も例外ではありません。
フィギュアに限らずアスリートが音楽を使用する競技に出場する場合は、事前に使用する曲(楽曲名、作詞・作曲者名など)を JASRAC に申請し、許諾を得たうえで使用する必要があります(勿論、演者本人が作詞作曲した曲である場合などは必要ありません)。
申請をした後、許諾は1 週間程度はかかることになるため、余裕をもって申請をする必要があります。
許諾が降りた後の使用料に関してはJASRAC のホームページで確認することができます。
たとえば、主催者が一括して支払うような場合、催物の公演時間が 1時間以上 2 時間までで、入場料無料・会場の定員が 500 名までの会場とした場合。
公演 1回の使用料は 5,000 円、同様の条件で会場の定員が 700 名になると 7,000 円というように会場の定員や入場料によって定められているのです。
ただし、すべての楽曲を JASRAC が管理しているわけではありません。
JASRAC 管理外の楽曲は、別途権利者から許諾を得る必要があるので注意が必要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。フィギュアスケートは氷の上で華やかな演技をするよりも前に、音楽においてもたくさんの準備期間が必要となってくるスポーツなのです。
衣装、音楽、シューズ、そして血のにじむような練習。
そんな選手達の見えない努力や工夫に思いを馳せながら競技を観戦するのもまた面白いかもしれません。
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