2022年のFIFAワールドカップ・カタール大会では、史上初となる試合が実現しました。
それは11月29日に行われた1次リーグB組のイングランド対ウェールズ。
「Battle of Britain(イギリスの闘い)」と呼ばれたこの試合で、初めて同じ国の代表同士が対戦したのです。
でもそもそもなぜワールドカップに1つの国から複数の代表チームが参加できるのでしょうか?
その一方、オリンピックにイギリス代表やイングランド代表がほとんど出場していないのはなぜなのでしょうか?
今回は、不思議なイギリスのサッカー事情に迫ります。
【イギリス】サッカー事情 ワールドカップ
まずは疑問に思っている人も多いはずの、FIFAワールドカップに複数の代表が出場している件について。
各代表チームの成績
イギリスには、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドと、4つの代表チームがあります。
それぞれのチームの本戦出場回数と主な成績は以下の通り。
代表 | 回数 | 主な成績 |
イングランド | 16 | 優勝(1回) ベスト4(1回) ベスト8(8回) |
スコットランド | 8 | 全て1次リーグ敗退 |
ウェールズ | 2 | ベスト8(1回) |
アイルランド | 3 | ベスト8(1回) ベスト16(2回) |
やはりプレミアリーグのあるイングランド代表が圧倒的な強さを誇っています。
しかし他の地域代表もかなりの強さ。1つの代表チームになればさらに強くなり、ワールドカップ制覇にもより近づけるはずです。
ではなぜそのような形を取らず、4つの代表がそれぞれ出場しているのでしょうか。
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4協会の歴史
ワールドカップに出場する条件は、「原則的に1つの国家で1つの代表チーム」となっています。
このルールに則れば、イギリス代表は1チームになるはず。
しかしイギリスは上記の「原則的に」の例外なのです。
その理由は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドそれぞれにサッカー協会があり、しかもその設立がどれもFIFA(国際サッカー連盟)の設立よりもずっと前だから。
具体的にはそれぞれの設立年は以下のようになっています。
イングランドサッカー協会(FA) 1863年
スコットランドサッカー協会 (SFA) 1873年
ウェールズサッカー協会 (FAW) 1876年
北アイルランドサッカー協会 (IFA) 1880年
実はイングランドサッカー協会は設立時にはただの「フットボール・アソシエーション(サッカー協会)」と名乗っていました。
それは世界最初のサッカー協会で、名前にわざわざ「イギリス」や「イングランド」とつける必要がなかったから。協会の影響が及ぶ範囲もイングランドのみなのかイギリス全体なのか明確に決めていませんでした。
ところが続いてスコットランドサッカー協会が発足したため、イングランドサッカー協会と改名したのです。
いずれにしてもイギリスの4つの地域の協会は全て19世紀の発足。これに対してFIFAの創立は1904年でした。
発足当初からFIFAは、「1国につき1協会の加盟」という原則。つまり日本なら関東サッカー協会や九州サッカー協会がそれぞれに代表を送り込むというような形はできないということになっていました。
ところがもうこの頃には、イギリスの4つのサッカー協会はそれぞれ独自に発展していて、1つにまとめるのは難しい状態。それでもサッカーの国際大会を行うのにサッカーの母国イギリスを外すわけにはいきません。そこで加盟を承認してもらうために、仕方なく4協会(代表)別々の加盟を認めたのです。
最初の国際試合
国としての歴史でいえば、イングランド王国がウェールズ公国を併合したのが1282年、スコットランド王国が合併されたのが1707年で、アイルランドが併合されたのは1801年。
つまりもともと4つの国だったこの地域は、最初のサッカー協会発足当時には1つの国だったことになります。
ところがそれぞれの独立意識はかなり強固なもの。1872年にイングランドとスコットランドの間で行われた試合は、同じイギリス同士なのに「世界初のサッカーの国際試合」と呼ばれています。
また1886年にはサッカーのルールを調整するために、イギリス国内の4つの協会が「国際サッカー評議会」を設立。あくまでもサッカーでは別の国という扱いになっているのです。
【イギリス】サッカー事情|オリンピック
FIFAワールドカップでは4つの地域を国として認めるような例外措置が取られていますが、そうはいかないという立場なのが、オリンピックです。
出場しないという選択
オリンピックの母体はIOC(国際オリンピック委員会)。
こちらではオリンピック出場の条件を「各国のオリンピック委員会単位での出場」と決めています。
そしてイギリスは全体で一つのオリンピック委員会を作ってIOCに加入。そのためオリンピックにはイングランド代表やウェールズ代表といったチームでの参加は不可能です。
では素直にイギリス代表を作れば良いと思うところですが、4つの協会はなかなかそれを認めません。なぜなら4つの協会は普段はワールドカップ本戦出場を狙って戦う敵同士だから。そのため互いに敬遠し合って1つのイギリスチームになることができないのです。
近年では開催国として出場権を得たロンドン五輪の際にイギリス代表を結成しましたが、スコットランドは辞退。招集されたのはイングランドとウェールズ代表のみでした。
しかもこのイギリス代表は予選敗退した1972年大会以来の結成。それまでの40年間イギリスはサッカーに不参加で、ロンドン五輪の後の2大会も不参加となっています。
まとめ
サッカーの母国という歴史を持つイギリス。
しかしその歴史があるために1つの国としてまとまることができないという皮肉な状態になっています。
ワールドカップやオリンピックで最強の「イギリス代表」を見たいと思うファンも多いはず。
はたして今後そのような日は来るのでしょうか。
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