将棋には「大橋流」と「伊藤流」という2つの大きな流派があります。
戦法の流派? それとも協会のようなもの?
違います。
現代ではこれは駒の並べ方の流派を表す言葉なのです。
駒の並べ方が違うといっても、飛車と角の位置が逆とか、歩を2列に並べるとかではありません。
今回は、駒の並べ方についてご紹介。
基本から流派の見分け方まで解説します。
【将棋】駒の並べ方の基本
「大橋流」と「伊藤流」については後で詳しく解説しますが、結論としては、完成した駒の配置はどれも同じ。
将棋の駒の並びは、上の画像の一種類しかありません。
駒の並び
将棋の駒は、一番下の段の中央に「王将(または玉)」を置き、その周りに「金」、「銀」、「桂」、「香」を左右対称に1枚ずつ並べます。
その上の段は、右から2つめに「飛車」、左から2つめに「角」。
さらに1段上には「歩」が9枚並びます。
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手順
厳密な決まりではありませんが、駒を並べるとき、各自勝手に並べて良いわけではないとされています。
並べ方にも手順があるのです。
正式な手順では、まず上座の棋士が駒袋から駒を盤上に出します。
上座は一般的には目上の人やお客様が座る席のことです。
将棋の場合も入り口から遠い場所や床の間に近い場所が上座で、基本的には序列の高い棋士が上座に座ります。
そして盤上に出した駒の中から、まず上座の棋士が王将を所定の位置に置きます。
続いて下座の棋士が玉将を所定の位置に置き、その後は一枚ずつ交互に上座・下座の順に並べていくのです。
駒の位置を示す数字
新聞や棋書などでは、駒の位置や動きを表すとき、数字二つを使った符号を使います。
並べ方と合わせてこの符号の使い方も覚えておくと便利です。
横に並ぶのは「123」といった算用数字で、「筋」。
縦に並ぶのは「一二三」といった漢数字で、「段」といいます。
筋は右から順に書き、段は上から順。
図で表すと下のようになります。
9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
一 | |||||||||
二 | |||||||||
三 | |||||||||
四 | |||||||||
五 | |||||||||
六 | |||||||||
七 | |||||||||
八 | |||||||||
九 |
これを使って駒の動きを表現しますが、読む順番は筋・段の順です。
読み方は数字をそのまま発音。
「2六」なら「にろく」となります。
例えば、手前の人が最初に王将(玉)を置くのは最も手前の中央。
数字で表すと「5九」になります。
【将棋】各流派の駒の並べ方
では「大橋流」と「伊藤流」とは、何のことでしょうか。
大橋と伊藤は、江戸時代の将棋家元のことで、一世名人の大橋宗桂、三世名人の伊藤宗看を祖とする流派。
どちらも家元として多くの弟子を育て、高段者を輩出しました。
その両家では、駒を並べる順番を厳密に決めていて、その並べる順番が「大橋流」、「伊藤流」という流派になって残っているのです。
実際のルール上は、駒を並べる順番は自由。
しかし多くのプロ棋士が大橋流と伊藤流のどちらかを採用しています。
大橋流
大橋流は、ほとんどのプロ棋士が採用している並べ方。
一段目、二段目、三段目の順に、真ん中から左右に広がるように並べるのが特徴です。
まず「王将(玉)」を置いた後、「左金」、「右金」、「左銀」、「右銀」と、と左右対称に広げるように並べていきます。
そのまま「左桂」、「右桂」、「左香」、「右香」と並べたら、次はその上の段の「角」、「飛車」。
歩も同じように中央、左、右の順で広げていきます。
つまり「5筋」、「6筋」、「4筋」、「7筋」、「3筋」、「8筋」、「2筋」、「9筋」、「1筋」の順です。
並べる順番は、以下のようになります。
19 | 17 | 15 | 13 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
10 | 11 | |||||||
8 | 6 | 4 | 2 | 1 | 3 | 5 | 7 | 9 |
伊藤流
ごく少数派である伊藤流は、「王将(玉)」から、「右桂」を並べるまでは大橋流と同じ。
その後、「香」を並べる前に、左から順に「歩」を並べていくのが特徴です。
歩を並べ終わった後、「左香」、「右香」、「角」、「飛車」の順で並べていきます。これはなぜかというと、どこまでも進んで相手陣地
に到達できる「香」と「角」と「飛車」を「歩」で止めるように配慮しているから。
「並べる際に駒の利きが相手陣地に直射するのは失礼」という奥ゆかしい理由でこのように並べるのです。
並べる順は以下のようになります。
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
19 | 20 | |||||||
17 | 6 | 4 | 2 | 1 | 3 | 5 | 7 | 18 |
2つの流派は復刻されたもの
「大橋流」、「伊藤流」という並べ方は、実は近年復刻された伝統。
昭和半ばまでのほとんどの棋士は、自由に駒を並べていました。
というのも、江戸時代に将棋界を席巻した大橋家(本家と分家)と伊藤家は、明治に入ると権威を失い、出身者が名人となる伝統もなくなっていたのです。
その結果、大橋流や伊藤流の並べ方も廃れ、半ば忘れ去られていました。
それを復活させたのが、中原誠16世名人と米長邦雄永世棋聖のタイトル戦。
昭和後期には中原-米長のタイトル戦を見た後進が真似をするようになり、現在のように大橋流で駒を並べることが一般的になったと言われています。
またそれ以前には1970年代にあの加藤一二三九段だけが大橋流で並べていたという証言も。
いずれにしてもその時代のトップ棋士が行ったことで、歴史ある並べ方が復活したのです。
まとめ
実は近年になって復活した駒の並べ方の流派。
ベテランの中には今も自由に並べている棋士もいて、流派について説明しようとするとよく分からなくなることがあるそうです。
ですからアマチュアなら並べる順番に気を使う必要はないかもしれません。
しかし手順を守り、流派通りに並べていくことで集中力が高まるという人も。
これから将棋を始める方は並べ方の流儀にも気を使ってみると、先輩から一目置かれるかもしれません。
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