「柔よく剛を制す」は、有名な柔道の基本理念。
「言葉自体は聞いたことがあるけど、意味はよく分からない」という方も多いのではないでしょうか?
また誤解して使っている人も多いはず。
今回は柔道の「柔よく剛を制す」という言葉を特集します。
本来は全く違う意味を持つ言葉の由来や、柔道で使われるようになった理由について解説。
有名な言葉の続き、難しいその理想の体現者についてもご紹介します。
「柔よく剛を制す」という言葉の意味
「柔よく剛を制す」という言葉は、「柔軟性のあるものがそのしなやかさによって、剛強なものを制することができる」という意味です。
「やり方によっては柔和な者が、剛直な者を制御することが出来るし、弱い者でも強い者を制御することが出来る」ということの例えとして、人と人とのコミュニケーションのシーンなどで使われることもあります。
例:「柔よく剛を制すとも言うように、頭ごなしに叱るのではなく、やわらかい言葉で諭そう」
柔道で「柔よく剛を制す」という理由
「柔よく剛を制す」という言葉は、柔道の理念として有名です。
柔道は体の小さな選手でも、相手の力を利用した巧みな崩しを駆使して、大きい選手を投げ飛ばすこともある、見どころ満載のスポーツです。
体格のおおきい相手選手の一瞬の隙をついてふところに入り込み、背負い投げできれいな一本をとって勝利する姿は、柔道の醍醐味と言えるでしょう。
「柔よく剛を制す」は、身長の小さい選手や体格で劣る選手が、見た目では敵いそうもない大きい選手を制御し、勝利をおさめるときに用いられ、柔道以外のスポーツや格闘技でも使われるようになっています。
しかしこの言葉はもともとは柔術の理念。講道館柔道の創始者である嘉納治五郎師範は、柔道を確立する以前にさまざまな柔術の奥義に達し、その理論である「柔よく剛を制す」の柔の理から「心身の力を最も有効に使用する」原理へと発展させました。
「柔よく剛を制す」の由来
柔道のイメージが強いこの言葉ですが、その由来は古代中国の兵法書、「三略」の中の有名な一節です。
【「柔よく剛を制す」の現代語訳】
戦いについての予言の書「軍識(ぐんしき)」にこう書いてあります。
「柔は剛を抑え、弱は強を制す」と。
柔とは他者を包み育てる徳であり、剛とは他者を傷つける悪である。
弱者は人が助けようとするが、強者は人が攻め込もうとする。
柔、剛、弱、強ともにそれぞれ用いるべきところがある。
この四者を兼ねてその場に応じ自在に用いることが大切なのである。
原文では柔と剛の意味はかなり違います。
しかも柔のほうが剛よりも強いと言っているのではなく、柔、剛、弱、強をそれぞれ使うべきところで使うことが大切だと記されているのです。
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「柔よく剛を制す」には続きがある⁉
「柔よく剛を制す」には、実は続きの言葉があります。
それは「剛よく柔を断つ」。
「剛よく柔を断つ」とは「剛強な力は、柔軟性のあるものを断ち切ることができる」という意味です。
柔道の「柔よく剛を制す」は非現実的?
柔道や格闘技における「柔よく剛を制す」という言葉は、「技で力を制する」という意味で使われるのが一般的。
この言葉を聞いて「技こそが強さであり、技を磨けば力を制することができる」と解釈している人もいますが、力が必要ないということでは決してありません。
実際に、オリンピックや高校柔道の大会などでは、体重別に階級が分かれています。階級が分かれているのは言うまでもなく、重い(大きい)選手の方が強いからです。
実際に無差別級(体重制限なし)の大会で、上位に入賞するのは体重の重い、大きい選手がほとんどです。100㎏超えはもちろん、それ以上の選手も多く、軽量級の選手が入り込む余地はほとんどないというのが現実と言えます。
「柔よく剛を制す、剛よく柔を断つ」を二つ合わせて「柔剛一体」と言い、多くの格闘技で極意とされています。
技(柔)だけでなく、また力(剛)だけでもなく、しなやかさと力強さを適材適所で使いわけることが、勝つためには必要なのです。
まさに、一周回って「三略」の原文と同じ境地に辿り着いたと言えますね。
「柔よく剛を制す」を体現できる無差別級のみの大会
1964年の東京オリンピックから、オリンピック競技になった柔道は、スポーツとして世界各国で親しまれるようになりました。
オリンピックでは、体重差によるハンディキャップをなくすため、基本的には体重別に階級が分かれて試合が行われます。しかし、現在でも階級別の試合はなく、無差別級のみで日本一を決める大会があります。
それが、「全日本柔道選手権大会」です。
無差別級には100㎏を超える重量級の選手はもちろんですが、軽量級の実力者もこぞって参加します。
「柔よく剛を制す」の実践者
この全日本柔道選手権大会で過去には、1964年の東京オリンピック中量級で金メダルを獲得した、岡野功選手(身長171㎝、体重80㎏)が二度の優勝を果たし、「柔よく剛を制す」を体現。
バルセロナオリンピック(1992年)男子71キロ級、金メダルの古賀稔彦選手(身長169㎝)も、1990年大会で決勝まで勝ち上がって準優勝しています。
「柔よく剛を制す」は柔道家の憧れ
近年ではルール変更などもあり、軽、中量級選手にとって無差別級の大会のハードルは高くなったと言えます。
軽、中量級の選手にとって無差別級の大会は、体重差があるためケガのリスクも考えられる厳しい戦いです。
しかし、その一方で柔道家として、「柔よく剛を制す」を体現することができる憧れの舞台でもあるのです。
柔道以外のスポーツや格闘技でも、大きい選手と小柄な実力者といった体格差のある対戦カードには注目が集まります。
柔よく剛を制すその姿は、現代のスポーツや格闘技においても、見る人の心をつかみ、魅了し続けていると言えるでしょう。
まとめ
「柔よく剛を制す」という言葉の意味や由来、そして魅力について解説しました。
柔道の基本理念であるこの言葉ですが、「剛よく柔を断つ」と合わせて使われているように、それは容易なことではありません。
リスクもあり、体現するのが非常に難しいことであるからこそ、観る人に興奮と感動を与えることができるのでしょう。
「柔よく剛を制す」「剛よく柔を断つ」
技を磨き、体を鍛えてぶつかり合う、柔道をはじめとした格闘技から今後も目が離せません。
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