「世界最古のスポーツは何か」という話題で必ず名前が上がるのがレスリングです。
では一体どれくらい古いのでしょうか。
そしてどのような変遷を経て今のような形になったのでしょうか。
今回は、レスリングの歴史を調査。
その意外な紆余曲折もご紹介します。
【レスリング】歴史① 古代のレスリング
レスリングはあまりに古いスポーツであるため、その起源がはっきりしていません。
しかし少なくとも5000年前には原型ができていたと考えられています。
起源
レスリングに関する最も古い資料は5000年前のシュメール人のもの。
くさび形文字で書かれた叙事詩にレスリングが登場しています。
古代エジプトの遺跡にもレスリングに関する壁画が存在。ベニ・ハッサンの墓では400組のレスラーの絵が発見されています。
そして古代ギリシャでは、レスリングは「科学と神の芸術」という扱い。文武両道を求める若い男性にとって最も重要なトレーニングとなりました。
ルールは現在のフリースタイルに似たもの。
対戦相手を投げ飛ばすか押し倒して、相手の背中やお尻、胸、膝、肘が地面に着けば勝ちとされていました。
また当時のレスリングは裸で行うのが常識。全身にオリーブオイルを塗った上に細かい砂をかけて練習や試合を行なっていました。
この砂は日焼け止めや寒さ対策、滑り止めの役割を果たしていたと考えられています。
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古代オリンピック
レスリングが古代オリンピック種目に追加されたのは紀元前708年。
ではそれ以前はどうだったのかというと、第1回オリンピックは紀元前776年。当初の競技はスタディオン走という短距離走のみでした。
その後、スタディオン走の他に、距離を2倍にしたディアウロス走、スタディオンを10往復する長距離競技のドリコス走を追加。
そのあとに競走以外の初めての競技として追加されたのがレスリングでした。
当時は時間制限なしで3回フォールを奪えば勝ちというルール。
最も有名なレスラーは哲学者ピタゴラスの弟子でもあったクロトンのミロンで、彼は6回のオリンピックでチャンピオンになっています。
またこちらも著名な哲学者であるプラトンもレスリングの選手。
そもそも「プラトン」という名前は彼のレスリングの先生が付けた「広い」という意味のリングネームで、プラトンは大会でも2度の優勝を果たしています。
衰退
古代オリンピックでは最も人気の競技だったレスリングですが、その後、いきなり姿を消すことになります。
西暦393年、キリスト教の保護者であった皇帝テシオドスによって「異教のゲーム」と認定され、禁止されてしまったのです。
同時に古代オリンピックも終了。
レスリングは公の場では見られない競技となってしまいました。
ルネサンス期のレスリング
ルネサンス期になるとレスリングは社会的地位のある人々の競技として復活。
城や宮殿で行われるようになりました。
ルソーやモンテーニュといった哲学者、カラヴァッジオやレンブラントなどの画家もレスリングを行なったと言われています。
【レスリング】歴史② 近代のレスリング
オリンピックが復活したのは1896年。
1894年に開催された最初のオリンピック会議で競技は10種目と決められ、その中にレスリングが入ることになりました。
グレコローマン
現在のレスリングにはグレコローマンスタイルとフリースタイルという2つの種目があります。
第1回近代オリンピックで実施されたのは、グレコローマンのみ。
フランス語で「ギリシャとローマの」という意味です。
しかしグレコローマンは下半身を使っての攻撃・防御が禁止されるスタイル。
本来のギリシャやローマのレスリングにはそのようなルールはありませんでした。
グレコローマンスタイルを広めたのは、フランスの興行師ジャン・エクボラ。
1848年、彼は見世物小屋のショーの1つだったレスリングを近代的なスポーツにするため、安全面を考慮して腰から下をつかんではいけないというルールを作ったのです。
当初「フラットハンドレスリング」と名付けられたこのスポーツはヨーロッパ中に広まり、大人気のスポーツに発展しました。
そしてオリンピックにも採用。
体重区分はなく無差別・時間無制限で行なわれました。
フリースタイル
ヨーロッパでグレコローマンスタイルのレスリングが人気を集める中、これを嫌ったのがイギリスの人々。
制約が多いグレコローマンスタイルを否定し、より自由なスタイルのレスリングを行いました。
1870年頃になるとその中から「キャッチ・アズ・キャッチ・キャンス・スタイル」というレスリングの形が生まれます。
これは「つかめる所は全てつかめ」という意味。
このスタイルは腰から下への攻撃も許されるため、多くの関節技や寝技も開発され、人気を集めていきます。
やがてイギリスからの移民によって伝わったアメリカでこのレスリングは独自に進化。アメリカの高校や大学で行われているカレッジスタイルを経て、フリースタイルが誕生しました。
フリースタイルは開催地がアメリカであった1904年のセントルイス大会からオリンピック種目に追加されます。
ただし参加した40名は全員アメリカ人。
1912年のストックホルム大会では再び除外され、1920年のアントワープ大会からは連続して採用されるようになりました。
女子のオリンピック参加
女子レスリングがオリンピック種目に認定されたのは2004年のアテネ大会。しかし女子レスリングの歴史は古く、起源は紀元前7世紀頃のスパルタにまでさかのぼります。
さらにフランスでグレコローマンスタイルが生まれた当時のレスリングでも、多くの女性レスラーが活躍。
当時から女性のトーナメントも行われていました。
その歴史に比べて女子のオリンピック参加はあまりに遅かったと言われています。
まとめ
5000年の歴史を持つレスリングが日本に伝わったのは1930年ごろ。
早稲田大学柔道部が米国遠征した際にレスリングに接して持ち込んだのが最初だと言われています。
その後、1952年のオリンピック・ヘルシンキ大会では、フリースタイルの石井庄八選手が日本人唯一の金メダルを獲得。それをきっかけに日本は世界有数のレスリング王国に成長しました。
今後は女子のオリンピック種目としてグレコローマン・スタイルを取り入れようという動きも。その一方でオリンピック種目からレスリングを外すという議論も度々起こっています。
実は一度は表舞台から消えたこともあるレスリング。
歴史あるレスリングが今後もオリンピック種目として残っていくことを願いたいものです。
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